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作成: 中川 健太(作家・中川)公開: /更新:

中小企業の経営者のための 人の育成の見直しと生成AI

その仕事、教えられる人が辞めたら、どうなりますか。

仕事のやり方が、ベテランの頭の中にしか無い。そのベテランが辞めたり定年を迎えたりすると、仕事が止まります。しかも、教える人も、教える時間も足りない。まず、会社の仕事を書き出し(棚卸し)、誰がどの仕事をどこまでできるかを1枚の表にして、目で見て分かる形にします(見える化)。この表をスキルマップと呼びます。次に、誰でも同じ手順で教えられる形にし、1人が複数の仕事をこなせるように育てます。複数の仕事をこなせる人を多能工、そう育てることを多能工化と呼びます。生成AIの使い所も、そこから決まります。

大学を卒業して就職した人が、3年以内に辞めた割合(事業所の規模別)
規模5〜29人50.6%
規模1,000人以上24.2%
規模は、会社全体ではなく、就職した事業所(職場)の規模です。規模5人未満では58.2%、30〜99人では39.7%でした。大学を卒業した人の全体では31.2%、高校を卒業した人の全体では36.9%です。出典: 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和5年3月卒)」(新しいタブで開きます)(2026-10-23公表)

この資料の結論

見直しの要点は、3つです。

小さい職場ほど若手が辞め、教える仕組みも薄い

大学を卒業して就職した人が3年以内に辞めた割合は、就職した事業所(職場)の規模が5〜29人で50.6%、1,000人以上で24.2%です(厚生労働省)。教える仕組みも、小さい会社では薄い。JILPT(労働政策研究・研修機構)の調査で、OJT(職場で仕事をしながら教えること)として行っている取り組み(複数回答)を見ます。9人以下の企業で、一人ひとりの教育訓練の計画を作っているのは8.3%、専任の教育係を付けているのは6.9%でした。企業全体では、それぞれ12.4%、12.2%です。

育成の壁で最も多いのは、教える人の不足

厚生労働省の能力開発基本調査では、能力開発や人材育成に何らかの問題があるとした事業所が80.1%でした。この調査の対象は、常用労働者(期間を決めずに雇っている人など)が30人以上の事業所で、それより小さい所は含みません。問題点(複数回答)で最も多いのは「指導する人材が不足している」で、59.5%です。「人材を育成しても辞めてしまう」51.6%、「人材育成を行う時間がない」45.5%が続きます。教える人も時間も足りないなら、教え方を人任せにせず、誰でも同じ手順で教えられる形にします。製造業の別の調査では、技能の引き継ぎ(技能継承)がうまくいっている(「ややうまくいっている」を含む)企業に、その理由(複数回答)を聞いています。最も多いのは計画的なOJT(何を、いつまでに、誰が教えるかを決めて行うOJT)で、40.4%でした(JILPT の調査・従業員30人以上の製造業)。

引き継ぎは、再雇用だけに頼らず、記録と多能工化で

能力開発基本調査(常用労働者30人以上の事業所が対象)で、技能の引き継ぎのための取り組み(複数回答)を見ます。最も多いのは、中途採用を増やしている事業所で、56.2%です。次いで、定年などで辞める人から選んで、雇用を延長したり再雇用(定年を迎えた人などを、引き続き雇うこと)したりして指導者にしている事業所が54.7%でした。辞める予定の人のノウハウ(仕事のこつ)を文書やマニュアルにしている事業所は、22.0%です。製造業の別の調査では、技能の引き継ぎが必要と考える企業のうち、うまくいっている(「ややうまくいっている」を含む)と答えたのは33.3%です。デジタル技術を使う目的(複数回答)に技能の引き継ぎを挙げた企業は、回答した企業の21.7%でした。その企業が挙げた効果(複数回答)では、引き継ぐべき技術の見える化・標準化(誰がやっても同じやり方にすること)が77.8%でした(JILPT の調査・従業員30人以上の製造業)。再雇用で時間を稼ぐ間に、こつを記録に残し、多能工化でその仕事ができる人を増やします。

症状チェック / 約3分

自社に当てはまるものを、選んでください。

当てはまる症状が多い工程ほど、見直す余地が大きくなります。当てはまった数が最も多い工程を、最初に見る工程として示します。6つの工程すべてに当てはまった時は、工程01から順に見ることを勧めます。

6つの工程

人の育成を、6つの工程で見る。

仕事を書き出し、教える形を決める。入社した人を迎え入れ、1人が複数の仕事をこなせるようにする。ベテランのこつを残し、覚えたことを評価する。工程01のスキルマップが、後の工程すべての土台になります。

迎え入れて、広げる最初の数か月を支え、できる仕事を増やす
  1. 03入社してからの最初の数か月迎え入れ・相談相手・面談
  2. 04多能工化1人が複数の仕事をこなす

改善の定石

まず「なくす」「まとめる」。AIは最後。

業務改善の定石は、なくす・まとめる・入れ替える・仕組みにする、の順に考えることです(英語の頭文字から ECRS と呼びます)。人の育成でも考え方は同じです。要らない仕事を教えず、教えることを1枚の計画にまとめ、口での説明を手順書に替え、教える役と時間を決まりにします。手順書の下書きに生成AIを使うのは、その後です。

  1. ELIMINATEなくす要らない仕事、「見て覚えろ」だけの教え方、印象だけの評価は、本当に要るか。
  2. COMBINEまとめる誰が何をできるか、何をいつまでに教えるかを、1枚の表と計画に。
  3. REARRANGE入れ替える口での説明を、写真や動画の手順書へ。ベテランの作業の一部を、若手へ。
  4. SIMPLIFY仕組みにする教える役と時間、面談の日、評価の項目を、決まりと予定で。
  5. + GENERATIVE AI生成AI残った「人が文章を読み、書く」部分を支える。

何でもAIに任せない。AIが向くのは真ん中だけ。

スキルマップの表や研修の記録のように、決まった形で残すものは、表やシステムの方が確実です。生成AIは、ベテランの説明から手順書を下書きする、聞き取りの記録を要約する、といった文章を読み書きする場所で使います。

80.1%

能力開発や人材育成に何らかの問題があるとした事業所の割合です。この調査の対象は、常用労働者30人以上の事業所で、それより小さい所は含みません。問題点(複数回答)では、「指導する人材が不足している」が59.5%、「人材育成を行う時間がない」が45.5%でした。教える人も時間も限られる中で、何から手を付けるかを決めるのが定石です。

出典: 厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」(新しいタブで開きます)(2026-07-31公表・事業所調査・常用労働者30人以上の事業所が対象・p.24)

決まった形で残すシステム
  • スキルマップの表
  • 手順書と動画の置き場所
  • 研修の予定と受けた記録
  • 持ち場を入れ替える予定表
文章を読み、案を作る生成AI
  • ベテランの説明からの手順書の下書き
  • 聞き取りの記録の要約
  • 覚えたかを確かめる問いの作成
  • 日報や報告書の下書き
責任を伴う人
  • 評価と給料の判断
  • 誰に何を任せるかの判断
  • こつや判断の基準が正しいかの確認
  • 新人との面談
工程 01 / 06

仕事の棚卸しと見える化

スキルマップ・誰が何をどこまでできるか

誰が何をできるかは、毎日見ているので分かります。

どの仕事を、誰が、どこまでできるか。社長の頭の中にしか無いと、誰に何を教えればよいかが決まりません。会社の仕事を書き出し、一人ひとりができることを1枚の表にする工程です。この表をスキルマップと呼びます。

各社・各機関が公開している情報をもとにまとめたもので、作家・中川の支援事例ではありません。

ユニバーサルポスト(製造業、従業員150人)
取り組み

生産ラインごとに業務の手順や機械の操作を洗い出し、従業員一人ひとりの技術の段階を見える化した。どの作業も、標準的な作業ができる人が2人以上になるよう育成計画を立て、計画的に訓練した。成果として、技術の段階が見えるようになったことや、休みを取りやすい体制になったことが挙げられているが、数字は示されていない。

出典: 広島県『働き方改革取組マニュアル・事例集「取組アイデア編」』(長時間労働の削減 編)p.3(新しいタブで開きます)(掲載日不明・2026-10-24 閲覧)

二村自動車(卸売・小売業、従業員111人)
取り組み

整備部門の業務を棚卸しし、副店長が面談で担当者ごとの技術の段階をつかみ、スキルマップを作った。それをもとに、整備の技術教育をOJTで行った。成果として、副店長の負担の軽減、店舗全体の残業時間の削減が挙げられているが、数字は示されていない。

出典: 広島県『働き方改革取組マニュアル・事例集「取組アイデア編」』(長時間労働の削減 編)p.3(新しいタブで開きます)(掲載日不明・2026-10-24 閲覧)

起きていること

  • 会社の仕事を、一覧に書き出したことがない
  • その人しかできない仕事が、いくつあるか分からない
  • 誰に何を教えるかを、その時の思いつきで決めている
  • ベテランが辞めると、どの仕事が止まるか分からない

経営への影響その人しかできない仕事に気づかないまま、本人が休む日や辞める日を迎える。教える順番が決まらず、新人の育ちが遅れる

定石の打ち手

  • なくす書き出した仕事のうち、要らない仕事をやめる。要らない仕事は教えない
  • まとめる仕事と人を縦と横に並べた1枚の表(スキルマップ)にまとめる。一人ひとりの段階を「教われば、できる」「一人でできる」「人に教えられる」などで書く
  • 入れ替える社長の頭の中の見立てを、本人と上司が一緒に付けた表に替える
  • 仕組みにする半年に1回など時期を決めて、表を付け直す。一人しかできない仕事に印を付け、工程02・04で教える順番を決める

生成AIを入れる場所

  • 社員から聞き取った仕事のメモを、仕事の一覧の形に整える
  • 仕事の一覧から、スキルマップの表のひな形を作る
  • 表から一人しかできない仕事を拾い出し、教える順番の案を作る

誰がどの段階かの判断と、教える順番は人が決める。一人ひとりの評価に関わる情報をAIに入れるのは、使ってよいサービスを決めてから。

効果を測る指標
  • リスク一人しかできない仕事の数
  • リスク一覧に書き出していない仕事の数
  • 判断の質2人以上ができる仕事の割合
  • 判断の質スキルマップを最後に付け直した日
工程 02 / 06

教える仕組み

教える計画・手順書・教える役

うちには、新人に付きっきりで教える余裕はありません。

教える人が足りない。教える時間も無い。だからこそ、教え方を人任せにせず、誰でも同じ手順で教えられる形にする工程です。OJTを、計画と手順書のある形に変えます。

60.6%

正社員に計画的なOJT(何を、いつまでに、誰が教えるかを決めて行うOJT)を実施した事業所の割合です。この調査の対象は、常用労働者30人以上の事業所で、それより小さい所は含みません。企業の規模別では、30〜49人で44.4%、1,000人以上で78.4%でした。小さい会社の様子は、下の JILPT の調査で補います。

出典: 厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」(新しいタブで開きます)(2026-07-31公表・事業所調査・常用労働者30人以上の事業所が対象・p.22〜23)

各社・各機関が公開している情報をもとにまとめたもので、作家・中川の支援事例ではありません。

83.3→7.7%・離職率
プーラビダ(訪問看護、従業員30人)
実績生成AI

月末の報告書づくり(利用者1人あたり1時間以上かかっていた)に生成AIを使い、時間を90%短くしたとしている。ITに不慣れな社員にも、社員どうしで教え合う形で広げた。こうした取り組みをきっかけにした働き方改革で、離職率(辞めた人の割合)は83.3%から7.7%になったとしている。いつの時点からいつの時点への変化かは、記事に書かれていない。

出典: J-Net21(中小機構の中小企業向けサイト)(新しいタブで開きます)(2026-09-18)

14.0%
労働政策研究・研修機構(JILPT)調査シリーズNo.257「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(企業調査)」(2025-11-19公表・2024年10〜11月調査・従業員5人以上の企業・回答6,116社・p.38)
調査

9人以下の企業で、OJTとして行っている取り組み(複数回答)に、業務に関するマニュアルを配布していることを挙げた割合。企業全体では22.4%。企業全体で最も多いのは、仕事のやり方を実際に見せていることで、63.9%だった。

出典: 労働政策研究・研修機構(JILPT)調査シリーズNo.257「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(企業調査)」(新しいタブで開きます)(2025-11-19)

起きていること

  • 教え方が教える人によって違い、新人が覚える内容がばらつく
  • 何を、いつまでに覚えるかが決まっていない
  • 手順書が無く、教えるたびに一から口で説明している
  • 教える役の社員が、自分の仕事と教える仕事を両方抱えている

経営への影響教える人の手が止まり、その分の仕事が遅れる。新人が一人で仕事ができるまでの期間が延びる

定石の打ち手

  • なくす「見て覚えろ」だけの教え方をやめる
  • まとめる工程01のスキルマップをもとに、新人が覚える仕事と順番を1枚の教える計画にまとめる
  • 入れ替える口での説明を、写真や動画を使った手順書に替える。教える時は、手順書を見せ、やってもらい、できたかを確かめる
  • 仕組みにする教える役を決め、教える時間を仕事の予定に入れる。覚えたかは、スキルマップの段階で確かめる

生成AIを入れる場所

  • ベテランの説明を録音して文字にしたものから、手順書の下書きを作る
  • 手順書をもとに、新人が覚えたかを確かめる問いを作る
  • 日報や報告書の下書きを作り、書く時間と、教える人が直す時間を減らす

安全に関わる手順と、品質の基準は人が決めて確かめる。AIの下書きは、実際にその仕事をする人が読んで直す。

効果を測る指標
  • スピード新人が一人で仕事ができるまでの期間
  • リスク手順書が無い仕事の数
  • コスト教えるのにかかる時間
  • 判断の質教える計画どおりに覚えた新人の割合
工程 03 / 06

入社してからの最初の数か月

迎え入れ・相談相手・面談

最近の若い人は、すぐに辞めてしまいます。

大学を卒業して就職した人が3年以内に辞めた割合は、規模5〜29人の事業所で50.6%です。入社してからの最初の数か月に、覚えることと相談する相手を、前もって決めておく工程です。

各社・各機関が公開している情報をもとにまとめたもので、作家・中川の支援事例ではありません。

51.6%
厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」(2026-07-31公表・事業所調査・常用労働者30人以上の事業所が対象・p.24)
調査

能力開発や人材育成に関する問題点(複数回答)で、「人材を育成しても辞めてしまう」を挙げた事業所の割合。問題点の中で2番目に多い。最も多いのは「指導する人材が不足している」で59.5%、「人材育成を行う時間がない」は45.5%だった。常用労働者30人以上の事業所が対象で、それより小さい所は含まない。

出典: 厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」(新しいタブで開きます)(2026-07-31)

20.7%
労働政策研究・研修機構(JILPT)調査シリーズNo.257「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(企業調査)」(2025-11-19公表・2024年10〜11月調査・従業員5人以上の企業・回答6,116社・p.18)
調査

従業員の定着対策(社員が辞めずに働き続けるための取り組み)として重視していること(複数回答)に、能力開発や教育訓練を挙げた企業の割合。最も多いのは、賃金などの処遇を上げることで、64.6%だった。

出典: 労働政策研究・研修機構(JILPT)調査シリーズNo.257「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(企業調査)」(新しいタブで開きます)(2025-11-19)

起きていること

  • 入社した日に、何から覚えればよいかの説明が無い
  • 困った時に相談する相手が決まっていない
  • 最初の数か月に、本人と話す場を設けていない
  • 辞めると言われるまで、本人の悩みに気づかない

経営への影響採用にかけた手間と費用が戻らないうちに辞める。残った社員の負担が増える

定石の打ち手

  • なくす入社した日から、説明の無いまま現場に出すやり方をやめる
  • まとめる社内の決まり、仕事の手順書、新人がよく聞くことを、新人向けに1か所にまとめる
  • 入れ替える相談相手を、上司とは別の先輩に決める
  • 仕組みにする入社してから最初の3か月の予定(覚える仕事・会う人・面談の日)を、入社の前に1枚にする。面談は予定に入れ、必ず行う

生成AIを入れる場所

  • 入社から3か月の予定表の下書きを作る
  • 社内の決まりと手順書をもとに、新人がよく聞くことへの答えの案を作る
  • 面談で聞くことの案を作る

面談そのものと、本人の悩みへの対応は人が行う。本人の悩みや健康に関わる情報は、AIに入れない。

効果を測る指標
  • リスク入社から3年以内に辞めた人の割合
  • リスク入社から1年以内に辞めた人の数
  • 判断の質予定どおりに行った面談の回数
  • コスト1人を採用するのにかかった費用
工程 04 / 06

多能工化

1人が複数の仕事をこなす

仕事は、得意な人に任せた方が早いです。

1人が1つの仕事しかできないと、誰かが休むたびに仕事が止まります。1人が複数の仕事をこなせるようにする工程です。工程01のスキルマップで、誰に何を覚えてもらうかを決めます。

各社・各機関が公開している情報をもとにまとめたもので、作家・中川の支援事例ではありません。

約90%・有給休暇の取得率
エーピーシィ(自動車部品の加工、従業員65人)
実績

多能工を高く評価する人事評価の仕組みを入れ、ベテランの仕事は2人に引き継ぐ形にした。従業員の半数以上が複数の仕事をこなせるようになり、欠員が出ても作業に穴が開かないという。有給休暇の取得率は約90%になったとしている。

出典: J-Net21(中小機構の中小企業向けサイト)(新しいタブで開きます)(掲載日不明・2026-10-24 閲覧)

起きていること

  • 誰かが休むと、その人の持ち場が止まる
  • 忙しい持ち場と手の空いた持ち場があっても、人を動かせない
  • 別の仕事を覚えてもらう時間を取っていない
  • 複数の仕事ができるようになっても、評価や給料が変わらない

経営への影響誰かが休んだり辞めたりするたびに、仕事が止まる。忙しい持ち場の残業が減らない

定石の打ち手

  • なくす一人しかできない仕事をなくす。どの仕事も、少なくとも2人ができるようにする
  • まとめる工程01のスキルマップで、誰が次にどの仕事を覚えるかを決め、1枚の計画にまとめる
  • 入れ替える持ち場を一定の期間で入れ替え、別の仕事を実際にやってもらう
  • 仕組みにするできる仕事が増えたら、評価と給料に表れるようにする(工程06)

生成AIを入れる場所

  • スキルマップから、次に誰が何を覚えるとよいかの案を作る
  • 持ち場を入れ替える予定表の案を作る
  • 覚える仕事の手順書を、初めて覚える人向けの短い版に整える

誰をどの持ち場に動かすかは、本人と話して人が決める。安全に関わる作業は、必要な資格や教育を確かめてから任せる。

効果を測る指標
  • リスク一人しかできない仕事の数
  • 判断の質1人あたりのできる仕事の数
  • スピード休みが出た時に、代わりの人が入るまでの時間
  • コスト忙しい持ち場の残業時間
工程 05 / 06

技能の引き継ぎ

ベテランのこつを、辞める前に残す

ベテランには、定年の後も残ってもらうので大丈夫です。

ベテランの技能やこつは、本人が辞めたり定年を迎えたりすると、会社から消えます。再雇用で時間を稼ぐだけでなく、こつを記録に残し、若手に任せる工程です。

44.2%

技能の引き継ぎに問題があるとした事業所の割合です。製造業では65.8%、建設業では59.2%でした。この調査の対象は、常用労働者30人以上の事業所で、それより小さい所は含みません。

出典: 厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」(新しいタブで開きます)(2026-07-31公表・事業所調査・常用労働者30人以上の事業所が対象・p.39)

各社・各機関が公開している情報をもとにまとめたもので、作家・中川の支援事例ではありません。

+27/+40%・生産能力(1期目/2期目)
芝原工業(溶接・板金、従業員115人)
実績

中小機構の専門家派遣を受け、熟練工(経験を積んだベテランの職人)の作業を仕分けた。溶接以外の作業を運搬・補助の担当に集め、熟練工が溶接に集中できるようにした。1期目の活動で、溶接組立の工程の生産能力が27%増えたとしている。2期目は若手リーダーを加えた部門をまたぐチームで、前後の工程や物の流れを見直し、生産能力は40%増えたとしている。

出典: J-Net21(中小機構の中小企業向けサイト)(新しいタブで開きます)(掲載日不明・2026-10-24 閲覧)

77.8%
労働政策研究・研修機構(JILPT)「ものづくり産業における人材確保・定着と技能継承に関する調査」(2026-05-27公表・2025年11〜12月調査・従業員30人以上の製造業(機械・金属など11業種)の企業・回答4,342社・p.9〜10)
調査

デジタル技術を使う目的(複数回答)に技能の引き継ぎを挙げた企業が、その効果(複数回答)として、引き継ぐべき技術の見える化・標準化を挙げた割合。教育にかかる時間の短縮は55.4%だった。目的に技能の引き継ぎを挙げた企業は、回答した企業の21.7%だった。この21.7%は、デジタル技術を使っている企業の割合ではない。

出典: 労働政策研究・研修機構(JILPT)「ものづくり産業における人材確保・定着と技能継承に関する調査」(新しいタブで開きます)(2026-05-27)

54.7%
厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」(2026-07-31公表・事業所調査・常用労働者30人以上の事業所が対象・p.42)
調査

技能の引き継ぎのための取り組み(複数回答)で、定年などで辞める人から選んで、雇用を延長したり再雇用したりして指導者にしている事業所の割合。取り組みの中で2番目に多い。最も多いのは中途採用を増やしていることで56.2%、辞める予定の人のノウハウを文書やマニュアルにしているのは22.0%だった。常用労働者30人以上の事業所が対象で、それより小さい所は含まない。

出典: 厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」(新しいタブで開きます)(2026-07-31)

起きていること

  • ベテランしかできない作業があり、その人が高齢
  • こつや判断の基準が、記録に残っていない
  • 引き継ぎを、定年の直前になってから始める
  • 若手に任せず、ベテランが自分でやってしまう

経営への影響ベテランが辞めた日に、その作業ができなくなる。品質が落ち、取引先からの注文に応えられなくなる

定石の打ち手

  • なくすベテランでなくてもできる作業を、ベテランの仕事から外す
  • まとめるベテランのこつと判断の基準を、写真や動画を使った手順書にまとめる
  • 入れ替える再雇用だけに頼らず、定年の何年も前から若手と組ませて作業させる
  • 仕組みにする引き継ぐ技能と、いつまでに誰に引き継ぐかを工程01のスキルマップに書き、年に1回確かめる

生成AIを入れる場所

  • ベテランへの聞き取りを録音して文字にし、こつと判断の基準を手順書の下書きにまとめる
  • 手順書の下書きから、抜けていそうな所を問いの形で挙げさせ、ベテランに聞き直す
  • 作業の動画に付ける説明文の下書きを作る

こつや判断の基準が正しいかは、ベテラン本人が確かめる。AIの下書きを、そのまま正しい手順として使わない。

効果を測る指標
  • リスクベテランしかできない作業の数
  • リスク記録に残していない技能の数
  • スピード若手が一人でその作業をできるまでの期間
  • 判断の質引き継いだ作業での不良の件数
工程 06 / 06

評価と学び直し

できることを評価に・研修・国の助成金

仕事を覚えるのは、本人の努力しだいです。

できる仕事が増えても、評価や給料が変わらない。それでは、覚える意欲が続きません。スキルマップを評価につなげ、学び直しの場を用意する工程です。学び直しは、仕事に必要な知識や技能を、働きながら改めて身につけることです(リスキリングとも呼びます)。

16.2%

9人以下の企業で、2023年度にOFF-JT(会社の指示で、ふだんの仕事を一時的に離れて受ける研修や講習)を実施した割合です。企業全体では31.6%でした。

出典: 労働政策研究・研修機構(JILPT)調査シリーズNo.257「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(企業調査)」(新しいタブで開きます)(2025-11-19公表・2024年10〜11月調査・従業員5人以上の企業・回答6,116社・p.48)

起きていること

  • できる仕事が増えても、評価や給料に表れない
  • 評価の決まりが無く、社長の印象しだい
  • 研修に出す余裕が無く、仕事の中で覚えるしかない
  • 研修に使える国の助成金を、調べたことがない

経営への影響覚えても報われないと感じた人から辞める。新しい仕事や機械に対応できる人が育たない

定石の打ち手

  • なくす社長の印象だけで決める評価をやめる
  • まとめる社外の研修や講習で、誰が、いつ、何を学ぶかを、1年分の計画として1枚にまとめる
  • 入れ替える研修の費用をすべて会社で持つ前に、厚生労働省の人材開発支援助成金を使えないか確かめる。コースは7つあり、令和8年度に改正された。多くのコースは、研修を始める前に、計画を労働局へ届け出る必要がある。研修に申し込む前に、厚生労働省の最新の案内で確かめる
  • 仕組みにするスキルマップの段階を評価の項目に入れ、できる仕事が増えたら給料に表れる決まりにする

生成AIを入れる場所

  • スキルマップの段階をもとに、評価の項目の案を作る
  • 社員ごとに、次に覚える仕事と学ぶ内容の案を作る
  • 社外の研修で学んだことを、社内で共有する短い資料に整える

評価と給料は人が決める。AIに評価をさせない。社員の評価や給料の情報をAIに入れるのは、使ってよいサービスを決めてから。助成金の条件は、厚生労働省の案内か労働局で確かめる。

効果を測る指標
  • 判断の質評価の決まりを説明された社員の割合
  • スピードスキルマップの段階が1つ上がるまでの期間
  • コスト研修にかかった費用と、助成金で戻った額
  • リスク評価や給料への不満を理由に辞めた人の数

全体像

最初から最後まで、何が変わるか。

6つの工程の「いま」と「改善後」、そして効果を確かめる指標を一覧にします。

  1. 01仕事の棚卸しと見える化
    いま誰が何をできるかが、社長の頭の中にしか無い
    改善後仕事を書き出し、スキルマップに。AIが一覧を整える
    効果を測る指標一人しかできない仕事の数/2人以上ができる仕事の割合
  2. 02教える仕組み
    いま教え方が人任せ。手順書が無く、口で説明している
    改善後教える計画と手順書を作り、教える役を決める。AIが手順書を下書き
    効果を測る指標新人が一人で仕事ができるまでの期間/手順書が無い仕事の数
  3. 03入社してからの最初の数か月
    いま入社した日から説明が無く、相談相手もいない
    改善後最初の3か月の予定と相談相手を、入社の前に決める
    効果を測る指標入社から3年以内に辞めた人の割合/予定どおりに行った面談の回数
  4. 04多能工化
    いま1人が1つの仕事しかできず、休むと止まる
    改善後持ち場を入れ替え、1つの仕事を2人以上ができるように
    効果を測る指標1人あたりのできる仕事の数/休みが出た時に、代わりの人が入るまでの時間
  5. 05技能の引き継ぎ
    いまベテランのこつが記録に無い。再雇用頼み
    改善後こつを手順書に残し、若手と組ませる。AIが聞き取りを下書きに
    効果を測る指標ベテランしかできない作業の数/若手が一人でその作業をできるまでの期間
  6. 06評価と学び直し
    いま覚えても評価や給料が変わらない
    改善後スキルマップを評価につなげ、研修を1年分の計画に
    効果を測る指標スキルマップの段階が1つ上がるまでの期間/研修にかかった費用と、助成金で戻った額

効果は、連鎖して現れる。

誰が何をできるかが分からないと、教える順番も、持ち場の入れ替えも、評価も決まりません。見直しは、工程01から順に進めます。技能の引き継ぎは、ベテランの定年の時期から逆算して、早めに始めます。生成AIのルールは、並行して始めて構いません。

  1. 工程01・02で、見える化して、同じ手順で教える

    一人しかできない仕事が分かる。教える人の手が止まる時間が減る。

  2. 工程03・04で、迎え入れて、できる仕事を広げる

    新人が相談できる。誰かが休んでも、仕事が止まりにくくなる。

  3. 工程05・06で、こつを残し、覚えたことに報いる

    ベテランが辞めても、作業が続く。覚えた人が辞めにくくなる。

効果の測り方

指標は、3層に分けて測る。

経営層に報告するのは一番上の層です。「作った手順書の数」や「AIの利用回数」は活動の量であって、成果ではありません。人の育成の効果は、出るまでに時間がかかります。辞めた人の割合のように、年単位でしか比べられない指標もあります。工程02のプーラビダの事例のように、いつからいつまでの変化かが分からないと、比べられません。着手前に数え、数えた時期を書いておきます。

33.3%

製造業で、技能の引き継ぎが必要と考える企業のうち、引き継ぎが「うまくいっている」(1.9%)か「ややうまくいっている」(31.4%)と答えた割合です。うまくいっている(「ややうまくいっている」を含む)企業が挙げた理由(複数回答)で最も多いのは、計画的なOJTで、40.4%でした。自社でうまくいっているかは、感覚ではなく、着手前と後の数字で確かめます。

出典: 労働政策研究・研修機構(JILPT)「ものづくり産業における人材確保・定着と技能継承に関する調査」(新しいタブで開きます)(2026-05-27公表・2025年11〜12月調査・従業員30人以上の製造業(機械・金属など11業種)の企業・回答4,342社・p.4〜6)

経営成果 ── 経営層に報告
  • 入社から3年以内に辞めた人の割合
  • 新人が一人で仕事ができるまでの期間
  • 一人しかできない仕事の数
  • ベテランしかできない作業の数
業務指標 ── 担当が管理
  • 1人あたりのできる仕事の数
  • 教えるのにかかる時間
  • 予定どおりに行った面談の回数
  • 研修にかかった費用と、助成金で戻った額
活動指標 ── 担当が管理
  • 手順書が無い仕事の数
  • スキルマップを最後に付け直した日
  • 生成AIのルールを読んだ社員の割合
  • AIの下書きをそのまま使えた割合
着手前に、数える一人しかできない仕事の数、手順書が無い仕事の数、この3年に入社した人と辞めた人の数。数えた時点が、後で比べる基準になります。
期間をそろえて比べる辞めた人の割合は、入社した年ごとに、同じ年数で比べます。いつからいつまでの数字かを、必ず書き添えます。
新人が一人でできるまでを、日数で記録する仕事ごとに、教え始めた日と、一人でできるようになった日を書きます。手順書を作る前と後で比べます。
AIは、そのまま使えた割合と直す時間で評価する手順書や報告書の下書きをそのまま使えた割合と、直すのにかかった時間を測ります。手で作るより遅いなら、使い方を見直します。

進め方

4つの段階で進める。

期間は、社員数十人の会社を想定した目安です。最初の1か月で、仕事を書き出し、一人しかできない仕事に印を付けるところまで進めます。

  1. 0〜1か月書き出す
    • 会社の仕事を書き出す
    • スキルマップを作り、一人しかできない仕事に印を付ける
    • 定年が近いベテランと、その人しかできない作業を確かめる
  2. 1〜3か月教える形を作る
    • よく行う仕事から手順書を作る
    • 新人が覚える仕事と順番を、教える計画にまとめる
    • 入社から3か月の予定と相談相手を決める
  3. 3〜12か月広げて、残して、報いる
    • 持ち場を入れ替え、1つの仕事を2人以上ができるようにする
    • ベテランのこつを聞き取り、手順書に残す
    • スキルマップの段階を評価の項目に入れる
  4. 最初の月から生成AIのルールを1枚に
    • 使ってよいサービスを決める
    • 入れてよい情報を決める
    • 手順書の下書きと聞き取りの要約から使い始める

生成AIのルールづくりは、ほかの段階を待たずに始めて構いません。社員の評価や悩みに関わる情報が、個人の判断でAIに入れられている状態を早く終わらせる方が安全です。

生成AIを仕事に入れる時の決まりごと

最終判断は人が行う手順書の中身、評価、誰に何を任せるかに関わるものは、AIが作った後に必ず人が確かめてから使います。
根拠を示させるどの手順書・どの聞き取りの記録のどこに基づくかを示させます。根拠を示せない回答は使いません。
入れてよい情報を決める社員の評価や健康など、扱いに注意が要る情報を入れる前に、サービスの契約条件(入れた情報をAIの学習に使うか、どこに保存するか)を確かめ、ルールに書きます。
会社の契約で使う社員の個人の契約ではなく、会社が契約したサービスを使います。誰が何に使ったかを会社が把握できます。

経営判断

経営者にしか、決められないこと。

人の育成の見直しは、担当者の努力だけでは先に進めなくなる所があります。次の5つは、担当者の権限では決められません。

  1. 教える時間を、仕事として認める教える役の社員の仕事を減らし、教える時間を予定に入れます。教える時間を削らせないと決めて伝えます。
  2. 一人しかできない仕事を、なくすと決める得意な人に任せた方が、目先は早い。それでも、1つの仕事を2人以上ができるようにすると決めます。
  3. ベテランに、教える役を頼むベテランに、こつを記録に残すことと、若手と組むことを頼みます。引き継ぎの期限は、定年の時期から逆算して決めます。
  4. できる仕事が増えたら、給料に表すスキルマップを評価と給料につなげるかは、経営者が決めます。決めた内容は、社員に説明します。
  5. 研修にかける費用を決める社外の研修に出す人と費用を、年の初めに決めます。国の人材開発支援助成金を使うなら、研修を始める前に計画の届け出が要ります。研修に申し込む前に、最新の案内で確かめます。
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