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作成: 中川 健太(作家・中川)公開: /更新:

中小企業の経営者のための 受発注・在庫・原価の見直しと生成AI

その商品、いくらで売れば利益が残りますか。

卸、製造、小売、飲食など、在庫を持つ会社に向けた資料です。仕入れ値や運賃が上がっても、どの商品でいくら利益が残っているかが分からなければ、どれをいくら値上げするかを決められません。まず、商品ごとに原価(仕入れや製造にかかった費用)と粗利(売値から原価を引いた残り)を出します。そのためには、注文、在庫、出荷の記録がそろっている必要があります。在庫は時期を決めて数え、帳簿の数と合わせます(棚卸し)。こうした数字を、目で見て分かる形にすること(見える化)が出発点です。生成AIの使い所も、そこから決まります。

原価の把握の細かさ別に見た、価格転嫁(上がった費用を、売値に上乗せすること)ができなかった小規模事業者の割合
原価を製品・商品・サービス別に把握25.1%
原価をほとんど把握していない44.4%
事業単位で把握している事業者では29.3%、全社単位で把握している事業者では32.2%でした。過去1年間の費用全体の変動分を、どの程度販売価格に転嫁できたかを聞いたもので、「転嫁不要」と答えた事業者は除いています。並べて比べた結果(相関)で、原価を把握したから価格転嫁できた、とまでは言えません。出典: 2026年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要(中小企業庁 調査室)(新しいタブで開きます)(経済産業研究所 BBLセミナー資料・2026年6月11日・元データは合同会社デロイト トーマツ「令和7年度小規模事業者の経営課題と事業活動に関する調査」・小規模事業者の回答・p.19)

この資料の結論

見直しの要点は、3つです。

原価を細かく把握している事業者ほど、価格転嫁できなかった割合が低い

2026年版の中小企業白書・小規模企業白書の概要は、小規模事業者について、原価の把握の細かさ別に、価格転嫁できなかった割合を比べています。過去1年間の費用全体の変動分を、どの程度販売価格に転嫁できたかを聞いたもので、「転嫁不要」と答えた事業者は除いています。価格転嫁できなかった割合は、原価を製品・商品・サービス別に把握している事業者で25.1%、事業単位で把握している事業者で29.3%、全社単位で把握している事業者で32.2%、ほとんど把握していない事業者で44.4%でした。並べて比べた結果(相関)で、原価を把握したから価格転嫁できた、とまでは言えません。それでも、商品ごとの原価が分からなければ、どの商品をいくら上げるかの根拠を示せません。同じ概要では、原価を製品・商品・サービス別か事業単位で把握している(原価管理に取り組んでいる)小規模事業者は67.8%です。支援機関に支援を求めている分野として原価管理を挙げた小規模事業者は11.9%でした(複数回答)。

運賃の値上げを、受け入れるだけでは済まない

物流の2024年問題(2024年4月からトラック運転手の時間外労働に年960時間の上限ができ、何も対策をしなければ物流が滞るおそれがあるとされた問題)で、マイナスの影響があるとした企業は68.6%でした。「対応あり」とした企業(62.7%)に対応策を聞くと、最も多かったのは「運送費の値上げ(受け入れ)」で、43.3%です(帝国データバンク・2024年1月26日公表・有効回答11,407社・対応策は複数回答)。2025年4月1日からは、改正物流効率化法で、すべての荷主(運送を頼む側の会社)に努力義務がかかっています。求められているのは、積載効率を上げること(1回の運送でトラックに積む荷物を増やすこと)と、荷待ち(トラックが着いてから積み降ろしが始まるまでの待ち時間)と荷役(荷物の積み降ろしなど)の時間を減らすことです。国が示す判断の基準には、「納品日数の集約」(届ける日をまとめること)や「物流・販売・調達等の関連部門の連携」が挙がっています。1年間に扱う荷物の重量が9万トン以上の特定荷主には、2026年4月から、中長期の計画づくりや定期の報告などが義務になりました。運賃の値上げを受け入れる前に、急ぎの少量の注文を減らし、届けてもらう日をまとめられないかを見直します(工程04)。

在庫と注文を、1つの一覧で見る

在庫の数、受けた注文、出荷の予定が、別々の帳面や表にあると、欠品(在庫が切れて売れないこと)や過剰在庫(売れる見込みより多く抱えた在庫)に気づくのが遅れます。藤絹織物は、RFID(電波で読み取る札)を使い、4時間かかっていた棚卸しが10分で終わるようになったとしています。共和テクノスは、在庫と注文の情報を、生産管理のシステム(何を、いつ、いくつ作るかを管理する仕組み)で扱うようにしました。中小企業の棚卸しの時間や、欠品・過剰在庫についての統計は、見つかっていません。この資料では、事例から言える範囲にとどめます。まず、自社の在庫と注文を1つの一覧にまとめるところから始めます。

症状チェック / 約3分

自社に当てはまるものを、選んでください。

当てはまる症状が多い工程ほど、見直す余地が大きくなります。当てはまった数が最も多い工程を、最初に見る工程として示します。6つの工程すべてに当てはまった時は、工程01から順に見ることを勧めます。

6つの工程

受発注・在庫・原価を、6つの工程で見る。

注文を受け、品物を出す。在庫を数え、仕入れる。その記録をもとに、商品ごとの原価を出し、取引先とのやり取りを整える。工程01〜04の記録がそろうと、工程05で商品ごとの粗利を出せます。

改善の定石

まず「なくす」「まとめる」。生成AIは最後。

業務改善の定石は、なくす・まとめる・入れ替える・仕組みにする、の順に考えることです(英語の頭文字から ECRS と呼びます)。受発注・在庫・原価でも考え方は同じです。打ち直しと書き写しをなくし、注文と在庫を1つの一覧にまとめ、手書きの伝票や勘に頼った注文を、記録と決まりに替えます。文面の下書きに生成AIを使うのは、その後です。

  1. ELIMINATEなくす注文の打ち直し、伝票への書き写し、急ぎの少量の注文は、本当に要るか。
  2. COMBINEまとめる注文・在庫・出荷の予定を、1つの一覧に。届けてもらう日を、まとめて。
  3. REARRANGE入れ替える手書きの伝票を、記録から出す伝票へ。勘に頼った注文を、決めた数で出す注文へ。
  4. SIMPLIFY仕組みにする棚卸しの日、注文する数の見直し、原価の表の付け直しを、決まりと予定で。
  5. + GENERATIVE AI生成AI残った「人が文章を読み、書く」部分を支える。

何でもAIに任せない。生成AIが向くのは真ん中だけ。

在庫の数、注文、原価の計算のように、正確さが要るものは、表やシステムの方が確実です。生成AIは、注文のメールから項目を抜き出す、取引先への文面を下書きする、といった文章を読み書きする場所で使います。

43.3%

物流の2024年問題に「対応あり」とした企業(62.7%)に対応策を聞くと、最も多かったのは「運送費の値上げ(受け入れ)」でした(複数回答)。マイナスの影響があるとした企業は68.6%です。2023年12月〜2024年1月の調査で、少し古い数字です。値上げを受け入れる前に、急ぎの少量の注文をなくし、届けてもらう日をまとめる。それが定石の順番です。

出典: 帝国データバンク「2024年問題に対する企業の意識調査」(新しいタブで開きます)(2024年1月26日公表・調査は2023年12月〜2024年1月・有効回答11,407社)

決まった形で残すシステム
  • 注文の一覧
  • 在庫の数と、入荷・出荷の記録
  • 注文する数の計算
  • 商品ごとの原価と粗利の計算
文章を読み、案を作る生成AI
  • 注文のメールからの項目の抜き出し
  • 取引先への文面の下書き
  • 粗利の低い商品の理由の候補出し
  • 手順書の下書き
責任を伴う人
  • 売値と値上げの判断
  • 在庫の処分の判断
  • 取引の条件の交渉
  • 注文の数と納期の最終確認
工程 01 / 06

注文の受け付け

FAX・電話・メールで届く注文をそろえる

注文は、昔からFAXで届きます。取引先に合わせるしかありません。

注文が、FAX、電話、メール、Webと、いろいろな形で届く。受けた人が注文書を見て、手で打ち直す。打ち直すたびに、手間と間違いが生まれます。届いた注文を、同じ形のデータにそろえる工程です。紙やFAXの注文書の文字をAIで読み取り、データにする仕組み(AI-OCR)を使う会社もあります。FAXそのものを減らす進め方は、別の資料「FAXと紙のやり取りをなくす」で詳しく扱います。

24.6%

業務分野ごとのデジタルの道具の使い方を聞いた設問の「受発注」で、「電話・FAXによる受発注」と答えた会社の割合です。「メール・ホームページ等オンラインでの受発注」は48.8%、「EDI(取引先と、注文書や請求書を決まった形のデータでやり取りする仕組み)による受発注システムを導入」は13.6%、「ネットショップやオンライン決済を導入」は11.4%でした。集計したのは1,002社です。回答1,218社のうち、デジタル化の段階が最も低い「レベル1」(口頭の連絡、電話、帳簿での業務が多い)と答えた会社(17.7%)は、集計に含まれていません。

出典: 東京商工会議所「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査」(新しいタブで開きます)(2025年1月10日・調査は2024年10〜11月・主に東京23区内の中小企業・p.8)

各社・各機関が公開している情報をもとにまとめたもので、作家・中川の支援事例ではありません。

9割・AI-OCRで処理する注文
全国農協食品(食品の製造・卸、従業員101〜500人)
実績

菓子類を扱う部署で、取引先からの注文の約9割がFAXで、手で打ち直していた。AI-OCRを入れ、いまは注文の9割をAI-OCRで処理している。注文を受ける作業の時間は「3分の1程度短縮」されたとしている。

出典: インフォマート 導入事例(受発注のサービスの提供会社が自社サービスについて公開したもの)(新しいタブで開きます)

30分・1人1日あたりの短縮
山口油屋福太郎(業務用食品の卸など)
実績

情報が漏れるのを心配して、Webでの注文に移らずFAXを続けたい取引先があった。そこで、FAXの注文(月に約5,500枚)はそのまま受け、AI-OCRで読み取る形にした。1人1日あたり1時間30分かかっていた、注文をシステムに入れる作業が、30分短くなったとしている。

出典: インフォマート 導入事例(受発注のサービスの提供会社が自社サービスについて公開したもの)(新しいタブで開きます)

起きていること

  • 注文がFAX・電話・メールなど、いろいろな形で届く
  • 注文書を見て、手で打ち直している
  • 手書きの数字の読み間違いや、注文の受け漏れが起きる
  • 注文を受けた人しか、中身を知らない

経営への影響打ち直しに人手と時間が取られる。数や品番の間違いが、誤出荷や返品になって戻ってくる

定石の打ち手

  • なくす注文書を見ながら手で打ち直す作業を減らす。受けた注文を、別の表に二度書かない
  • まとめるどの形で届いた注文も、1つの注文の一覧にまとめる。品番、数、納期、届け先の項目をそろえる
  • 入れ替える取引先に、Webの注文画面や、決まった書式のメールで送ってもらう。応じてもらえない取引先のFAXは、AI-OCRで読み取り、人が確かめる
  • 仕組みにする注文を受けたら、決まった時刻までに一覧に入れ、受けたことを取引先に返す

生成AIを入れる場所

  • メールで届いた注文の文面から、品番・数・納期を抜き出し、一覧の形に整える
  • AI-OCRで読み取った結果を過去の注文と見比べ、いつもと違う数や品番に印を付ける
  • 取引先に、注文の書式の変更をお願いする文面の下書きを作る

注文の数、品番、納期の最終確認は人が行う。読み取りの結果を、確かめずにそのまま出荷に回さない。取引先の情報をAIに入れるのは、使ってよいサービスを決めてから。

効果を測る指標
  • コスト注文1件を一覧に入れるのにかかる時間
  • リスク注文の入力間違いの件数
  • 判断の質手で打ち直している注文の割合
  • スピード注文を受けてから一覧に入るまでの時間
工程 02 / 06

受注から出荷・納品まで

出荷の指示・伝票・納品書

出荷は毎日回っています。困ってはいません。

注文を受けてから、品物をそろえて出荷し、納品書と請求書を出すまで。同じ注文の中身を、出荷の伝票、納品書、請求書と、何度も書き写していないか。注文の一覧から、そのまま伝票を出せる形にする工程です。

各社・各機関が公開している情報をもとにまとめたもので、作家・中川の支援事例ではありません。

6分の1伝票を出す業務
宝寿園(健康食品の卸・小売、従業員9人)
実績

IT導入補助金(ITツールを入れる費用の一部を国が補助する制度)の、2021年の事例。販売管理のシステム(注文から出荷、請求までを記録する仕組み)と伝票を出すシステムをつなぎ、伝票を出す業務を6分の1に短縮したとしている。

出典: IT導入補助金 活用事例(IT導入補助金2021)(新しいタブで開きます)

起きていること

  • 同じ注文の中身を、出荷の伝票・納品書・請求書に何度も書き写している
  • 注文の進み具合を聞かれても、すぐ答えられない
  • 品違いや数違いの出荷(誤出荷)が起きる
  • 納期の急な変更を、担当者の記憶で回している

経営への影響書き写しの手間が、注文の数に比例して増える。誤出荷が起きると、送り直しの運賃がかかり、取引先の信用も失う

定石の打ち手

  • なくす伝票や納品書への書き写しをやめる。注文の一覧から、そのまま印刷する
  • まとめる注文ごとに、受けた・そろえた・出荷した・納品した・請求した、の状態を1つの一覧で見られるようにする
  • 入れ替える手書きの伝票を、販売管理のシステムで出す伝票に替える
  • 仕組みにする出荷の前に、注文の一覧と品物を照らし合わせる手順を決める。届ける日をまとめられる取引先とは、まとめる相談をする(工程04)

生成AIを入れる場所

  • 出荷の遅れや納期の変更を、取引先に知らせる文面の下書きを作る
  • 注文の一覧から、今日の出荷の予定表を整える
  • よくある問い合わせ(届く日・在庫の有無)への答えの下書きを作る

出荷する品物と数の確認、納期の約束は人が行う。在庫の有無は、AIの答えではなく、記録で確かめる。

効果を測る指標
  • コスト注文1件あたり、伝票を出すまでにかかる時間
  • リスク誤出荷の件数
  • スピード注文を受けてから出荷までの日数
  • 判断の質注文の状態を、一覧ですぐ答えられた問い合わせの割合
工程 03 / 06

在庫の見える化

数え方・棚卸し・欠品と過剰在庫

在庫は、倉庫を見れば分かります。

帳簿の在庫の数と、棚の実際の数が合わない。合わない数字では、何を、いくつ仕入れればよいかが決まりません。在庫の数え方を決め、帳簿の数と実際の数を近づける工程です。欠品も過剰在庫も、在庫の数が正しく見えていない時に起きやすくなります。

各社・各機関が公開している情報をもとにまとめたもので、作家・中川の支援事例ではありません。

共和テクノス(金型・プレス加工)
取り組み

Microsoft Access(データベースのソフト)で管理していた在庫と注文の情報を、自社に合わせて作った生産管理のシステム(何を、いつ、いくつ作るかを管理する仕組み)で扱うようにした。栃木県の補助金を使った。効果の数字は示されていないが、過剰な在庫や残業が減ったとしている。

出典: 中小機構「ここからアプリ」導入事例(新しいタブで開きます)(2025-12-23)

起きていること

  • 帳簿の在庫の数と、実際の数が合わない
  • 棚卸しに時間がかかり、その日はほかの仕事が止まる
  • 在庫が切れて注文を断る一方で、売れない在庫が残っている
  • どこに何があるかを、担当者しか知らない

経営への影響欠品で売り逃す。売れない在庫が、お金と置き場所をふさぐ。棚卸しの数字が合わないと、利益の計算も狂う

定石の打ち手

  • なくす置き場所が決まっていない品をなくす。長く動いていない在庫は、処分するか値引きして売るかを決める
  • まとめる在庫の数、受けた注文、入荷の予定を、1つの一覧にまとめる
  • 入れ替える紙の在庫表を、入荷と出荷のたびに記録する形に替える。品数が多ければ、バーコードやRFIDで読み取る
  • 仕組みにする棚卸しの日と数え方を決める。帳簿と実際の数の差を記録し、差が出た品は原因を調べる

生成AIを入れる場所

  • 棚卸しで差が出た品の一覧から、よく差が出る品と、考えられる原因の候補を挙げる
  • 長く動いていない在庫の一覧から、処分や値引きを判断するための資料の下書きを作る
  • 在庫の数え方の手順書の下書きを作る

在庫の数は、数えた記録とシステムで管理する。AIに在庫の数を覚えさせたり、推測させたりしない。処分や値引きは人が決める。

効果を測る指標
  • リスク帳簿と実際の数が合わない品の数
  • コスト棚卸しにかかる時間
  • リスク欠品で断った注文の件数
  • 判断の質半年以上動いていない在庫の金額
工程 04 / 06

仕入れと発注の仕方

注文する数と時期・届けてもらう日

仕入れの注文は、長年の担当者に任せています。

いつ、いくつ注文するか。担当者の勘に頼ると、欠品と過剰在庫を行き来します。在庫がこの数まで減ったら注文する、という目安の数(発注点)を、品ごとに決める工程です。運賃が上がる中で、届けてもらう回数や日の決め方も、この工程で見直します。

各社・各機関が公開している情報をもとにまとめたもので、作家・中川の支援事例ではありません。

8.1%
中小機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(2026年3月・調査は2025年11〜12月・AIを導入済みの企業322社)
調査

AIを導入済みの企業(322社)のうち、導入済みのAIに需要予測(売れる数を前もって見込むこと)のAIを挙げた割合。発注点を決めるのに、需要予測のAIが要るわけではない。まずは過去の出荷の記録から決める。

出典: 中小機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(新しいタブで開きます)(2026年3月)

起きていること

  • 仕入れる数と時期を、担当者の勘と経験で決めている
  • 急ぎの注文が多く、そのたびに運賃が高くつく
  • 少ない量を、何度にも分けて届けてもらっている
  • 運送会社から求められた運賃の値上げを、そのまま受け入れている

経営への影響欠品と過剰在庫が交互に起きる。運賃と、荷物を受け取る手間が増える。担当者が休むと、仕入れの注文が止まる

定石の打ち手

  • なくす急ぎの少量の注文を減らす
  • まとめる仕入れ先ごと・品ごとに注文をまとめ、届けてもらう日を決める。2025年4月1日から、すべての荷主に、積載効率を上げ、荷待ちと荷役の時間を減らす努力義務がある。届ける日をまとめること(納品日数の集約)は、国が示す判断の基準にも挙がっている
  • 入れ替える勘に頼った注文をやめ、品ごとに決めた発注点で注文する形に替える。発注点は、1日に売れる数と、注文してから届くまでの日数から決める
  • 仕組みにする発注点と注文する数を、季節ごとなど時期を決めて見直す。売り出しや大口の注文の予定を、販売と仕入れの担当が前もって共有する(判断の基準にある「物流・販売・調達等の関連部門の連携」)

生成AIを入れる場所

  • 過去の出荷の記録をもとに、品ごとの売れ方の特徴を文章でまとめる
  • 発注点を見直す案について、表の数字から理由を説明する文面を作る
  • 仕入れ先や運送会社に、届けてもらう日をまとめる相談をする文面の下書きを作る

発注点と注文する数の計算は、表計算やシステムで行う。AIに数を決めさせない。運賃や取引の条件の交渉は人が行う。

効果を測る指標
  • リスク欠品の件数
  • コスト在庫の金額
  • コスト1か月の運賃
  • 判断の質発注点を決めた品の割合
工程 05 / 06

商品ごと・案件ごとの原価

粗利を、商品ごと・取引先ごとに見る

利益は、決算で見ています。

会社全体では利益が出ていても、商品ごと、取引先ごと、案件(工事や注文を受けて作る品など、1件ごとの仕事)ごとに見ると、赤字のものが紛れていることがあります。仕入れ値、運賃、手間を商品や案件に割り振り、粗利を出す工程です。工程01〜04の記録が、ここで数字になります。

67.8%

原価を製品・商品・サービス別か事業単位で把握している(原価管理に取り組んでいる)小規模事業者の割合です(9,915事業者)。原価の把握の細かさ別に見ると、価格転嫁できなかった割合(過去1年間の費用全体の変動分について。「転嫁不要」は除く)は、原価を製品・商品・サービス別に把握している事業者で25.1%、ほとんど把握していない事業者で44.4%でした。並べて比べた結果(相関)で、原価を把握したから価格転嫁できた、とまでは言えません。

出典: 2026年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要(新しいタブで開きます)(中小企業庁 調査室)(経済産業研究所 BBLセミナー資料・2026年6月11日・小規模事業者の回答・p.18〜19)・元データは合同会社デロイト トーマツ「令和7年度小規模事業者の経営課題と事業活動に関する調査」

各社・各機関が公開している情報をもとにまとめたもので、作家・中川の支援事例ではありません。

120万円・年間のコスト削減
河北(一般土木建築工事業、従業員54人)
実績

IT導入補助金を使い、工事の原価を管理するシステムを入れた、2020年の事例。見積もり、実行予算(工事ごとに、実際にかける費用の計画)、協力業者への注文の管理を1つのシステムにまとめた。年間120万円のコスト削減を実現したとしている(何の費用かは示されていない)。

出典: IT導入補助金 活用事例(IT導入補助金2020)(新しいタブで開きます)

11.9%
2026年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要(中小企業庁 調査室)(経済産業研究所 BBLセミナー資料・2026年6月11日・元データは合同会社デロイト トーマツ「令和7年度小規模事業者の経営課題と事業活動に関する調査」・小規模事業者の回答・p.24)
調査

支援機関に支援を求めている分野として、原価管理を挙げた小規模事業者の割合(9,622事業者・複数回答)。

出典: 2026年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要(中小企業庁 調査室)(新しいタブで開きます)(2026-06-11)

起きていること

  • 商品ごとの粗利を、すぐには答えられない
  • 値上げの交渉で、原価の根拠を示せない
  • 運賃や手間を、原価に入れていない
  • 案件ごとに、見積もりと実際にかかった原価を比べていない

経営への影響売るほど赤字の商品や取引先に気づかない。値上げの交渉で根拠を示せず、上がった原価を自社でかぶる

定石の打ち手

  • なくす粗利の出ない商品や取引の条件を、続けるかどうか見直す
  • まとめる仕入れ値、運賃、作業の時間を、商品ごと・案件ごとに1つの表にまとめる
  • 入れ替える決算でしか見ていなかった利益を、商品ごと・取引先ごとの粗利の一覧に替える。案件ごとに、見積もりと実際の原価を並べる
  • 仕組みにする原価の表を、月に1回など時期を決めて付け直す。仕入れ値や運賃が上がったら、どの商品の粗利がいくら減るかを出し、値上げの交渉に使う

生成AIを入れる場所

  • 原価の表から、粗利の低い商品や取引先を拾い出し、理由の候補を挙げる
  • 原価の表をもとに、値上げをお願いする文書の下書きを作る
  • 見積もりと実際の原価がずれた案件について、担当者に理由を聞くための問いを作る

原価と粗利の計算は、表計算やシステムで行う。AIに計算させた数字を、そのまま使わない。値上げの判断と交渉は人が行う。仕入れ値や取引の条件をAIに入れるのは、使ってよいサービスを決めてから。

効果を測る指標
  • 判断の質粗利を出している商品の割合
  • 判断の質粗利が赤字の商品・取引先の数
  • コスト見積もりと実際の原価の差
  • スピード月の締めから、商品ごとの粗利が出るまでの日数
工程 06 / 06

取引先とのデータのやり取り

データでの受発注・INSネットの終了

取引先がやり方を変えない限り、うちだけでは変えられません。

取引先ごとに、注文の形も書式も違う。相手に合わせるほど、受ける側の手間が増えます。取引先と、注文書や請求書を決まった形のデータでやり取りする仕組み(EDI)を使う工程です。INSネット(NTTのデジタルの電話回線)を使ったEDIがある会社は、2028年12月31日までに、インターネットを使う方式へ移る必要があります。

2028年12月31日

INSネットのデータ通信(ディジタル通信モード)は、2024年1月から地域ごとに順次終わり、代わりの仕組み(補完策)に切り替わりました。この補完策もINSネット自体も、2028年12月31日に終わります。ディジタル通信モードの主な使い道には、EDI(メーカー・卸・小売の間の注文データの通信)が挙げられています。補完策では、通信の遅れで処理の時間が増えるなど、使う機器によっては通信に影響が出ることがあります。一方で、普通のFAX(G3ファクス)は、INSネットが終わっても、そのまま使い続けられるとされています。期限があるのはINSネットを使ったEDIで、普通のFAXとは別の話です。

出典: NTT東日本、情報通信ネットワーク産業協会(新しいタブで開きます)

各社・各機関が公開している情報をもとにまとめたもので、作家・中川の支援事例ではありません。

卸売業・21〜50人
匿名事例

東京商工会議所の調査の「企業の声」に、FAXや郵送でのやり取りが多い業界で、請求書などを「デジタルへシフトした途端に他社へ乗り換えられる可能性を拭えない」という心配の声があった。データでのやり取りへの切り替えは、取引先ごとに見極めながら進める必要がある。

出典: 東京商工会議所「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査」(企業の声・p.26)(新しいタブで開きます)(2025-01-10)

起きていること

  • 取引先ごとに、注文のやり方や書式が違う
  • 取引先ごとの専用の画面に、1社ずつ入って注文を確かめている
  • EDIの通信に、INSネットを使っているか分からない
  • データでのやり取りに切り替えると、取引先が離れないか心配

経営への影響取引先が増えるほど、注文を受ける手間が増える。INSネットを使ったEDIを放っておくと、2028年12月31日の後に、取引先とのデータのやり取りが止まるおそれがある

定石の打ち手

  • なくす取引先ごとに違う書式に、毎回手で合わせる作業を減らす
  • まとめる取引先ごとの注文の方法(FAX・メール・専用の画面・EDI)を一覧にまとめ、件数の多い順に並べる
  • 入れ替えるINSネットを使ったEDIは、インターネットを使う方式へ移す。中小企業共通EDI(中小企業どうしで使いやすいよう、形をそろえたEDI)に対応したサービスも選択肢になる
  • 仕組みにする新しい取引先とは、最初からデータでやり取りする決まりにする。切り替えにくい取引先は無理に変えず、受け取る側で読み取る(工程01)

生成AIを入れる場所

  • 取引先ごとの注文の方法の一覧から、切り替える順番の案を作る
  • 取引先に、データでのやり取りへの切り替えをお願いする文書の下書きを作る
  • EDIのサービスの資料を読み、自社に要る機能と比べる表の下書きを作る

どのEDIのサービスを使うか、取引先にどこまでお願いするかは人が決める。取引の条件を変える時は、取引先と話して決める。

効果を測る指標
  • 判断の質データで受けている注文の割合
  • コスト取引先ごとの書式に合わせる作業の時間
  • リスクINSネットを使っている通信の数
  • スピード取引先1社を切り替えるのにかかった期間

全体像

最初から最後まで、何が変わるか。

6つの工程の「いま」と「改善後」、そして効果を確かめる指標を一覧にします。

  1. 01注文の受け付け
    いま注文がいろいろな形で届き、手で打ち直している
    改善後注文を1つの一覧にそろえる。FAXはAI-OCRで読み取り、メールの注文は生成AIで項目を抜き出す
    効果を測る指標注文1件を一覧に入れるのにかかる時間/注文の入力間違いの件数
  2. 02受注から出荷・納品まで
    いま同じ注文を、伝票・納品書・請求書に書き写している
    改善後注文の一覧から伝票を出し、注文の状態を1つの一覧で見る
    効果を測る指標注文1件あたり、伝票を出すまでにかかる時間/誤出荷の件数
  3. 03在庫の見える化
    いま帳簿と実際の在庫の数が合わない
    改善後入荷と出荷のたびに記録し、棚卸しの日と数え方を決める
    効果を測る指標帳簿と実際の数が合わない品の数/棚卸しにかかる時間
  4. 04仕入れと発注の仕方
    いま勘で注文し、運賃の値上げをそのまま受け入れている
    改善後品ごとに発注点を決め、届けてもらう日をまとめる
    効果を測る指標欠品の件数/1か月の運賃
  5. 05商品ごと・案件ごとの原価
    いま利益は決算でしか見ていない
    改善後商品ごと・案件ごとに粗利を出し、値上げの交渉に使う
    効果を測る指標粗利を出している商品の割合/見積もりと実際の原価の差
  6. 06取引先とのデータのやり取り
    いま取引先ごとに注文の形が違う。INSネットを使ったEDIがあるか確かめていない
    改善後EDIでつなぐ。INSネットを使ったEDIは、インターネットを使う方式へ
    効果を測る指標データで受けている注文の割合/INSネットを使っている通信の数

効果は、連鎖して現れる。

注文と在庫の記録がそろわないと、発注点も、商品ごとの原価も出せません。見直しは、工程01から順に進めます。INSネットを使ったEDIがある会社は、2028年12月31日から逆算して、工程06を早めに始めます。生成AIのルールは、並行して始めて構いません。

  1. 工程01・02で、注文を1つの一覧にそろえる

    打ち直しと書き写しが減る。誤出荷が減る。

  2. 工程03・04で、在庫を数え、注文の仕方を決める

    欠品と過剰在庫が減る。運賃の無駄が減る。

  3. 工程05・06で、粗利を出し、取引先とデータでつなぐ

    値上げの根拠を示せる。取引先が増えても、手間が増えにくくなる。

効果の測り方

指標は、3層に分けて測る。

経営層に報告するのは一番上の層です。「入れたシステムの数」や「AIの利用回数」は活動の量であって、成果ではありません。受発注・在庫・原価の効果は、月ごとの数字で比べられます。ただし、棚卸しの時間や誤出荷の件数は、着手前に数えておかないと後で比べられません。数えた時期も書いておきます。

25.1%

価格転嫁できなかった小規模事業者の割合(過去1年間の費用全体の変動分について。「転嫁不要」は除く)は、原価を製品・商品・サービス別に把握している事業者で25.1%、ほとんど把握していない事業者で44.4%でした。並べて比べた結果(相関)で、原価を把握したから価格転嫁できた、とまでは言えません。自社では、商品ごとの粗利を出す前と後で、値上げの交渉がどう変わったかを数字で確かめます。

出典: 2026年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要(新しいタブで開きます)(中小企業庁 調査室)(経済産業研究所 BBLセミナー資料・2026年6月11日・小規模事業者の回答・p.19)・元データは合同会社デロイト トーマツ「令和7年度小規模事業者の経営課題と事業活動に関する調査」

経営成果 ── 経営層に報告
  • 粗利が赤字の商品・取引先の数
  • 在庫の金額
  • 欠品で断った注文の件数
  • 1か月の運賃
業務指標 ── 担当が管理
  • 注文1件を一覧に入れるのにかかる時間
  • 誤出荷の件数
  • 棚卸しにかかる時間
  • 帳簿と実際の数が合わない品の数
活動指標 ── 担当が管理
  • 手で打ち直している注文の割合
  • 発注点を決めた品の割合
  • 生成AIのルールを読んだ社員の割合
  • AIの下書きをそのまま使えた割合
着手前に、数える注文1件を一覧に入れるのにかかる時間、誤出荷の件数、帳簿と実際の在庫の差、1か月の運賃。数えた時点が、後で比べる基準になります。
同じ時期どうしで比べる注文の数や在庫は、季節で大きく変わります。去年の同じ月と比べるなど、時期をそろえて比べます。
粗利は、同じ計算のしかたで比べる運賃や手間を原価に入れるかどうかを決め、決めた計算のしかたを変えずに比べます。
AIは、そのまま使えた割合と直す時間で評価する注文の抜き出しや文面の下書きをそのまま使えた割合と、直すのにかかった時間を測ります。手で作るより遅いなら、使い方を見直します。

進め方

4つの段階で進める。

期間は、社員数十人の会社を想定した目安です。最初の1か月で、注文の届き方と、帳簿と実際の在庫の差を数えるところまで進めます。

  1. 0〜1か月数える
    • 取引先ごとの注文の届き方を一覧にする
    • 在庫を数え、帳簿との差を確かめる
    • INSネットを使ったEDIがあるか確かめる
  2. 1〜3か月1つの一覧にする
    • 注文・在庫・出荷の予定を1つの一覧にまとめる
    • 注文の一覧から伝票を出す
    • 売れ筋の品から発注点を決める
  3. 3〜12か月原価を出し、つなぐ
    • 商品ごと・案件ごとの粗利を出す
    • 仕入れ先や運送会社と、届けてもらう日をまとめる相談をする
    • 注文の多い取引先から、データでのやり取りに切り替える
  4. 最初の月から生成AIのルールを1枚に
    • 使ってよいサービスを決める
    • 入れてよい情報を決める
    • 注文のメールからの抜き出しと、文面の下書きから使い始める

生成AIのルールづくりは、ほかの段階を待たずに始めて構いません。取引先の情報や仕入れ値が、個人の判断でAIに入れられている状態を早く終わらせる方が安全です。INSネットを使ったEDIがある会社は、2028年12月31日より前に移行を終えられるよう、最初の月に確かめます。

生成AIを仕事に入れる時の決まりごと

最終判断は人が行う注文の数と納期、売値、在庫の処分に関わるものは、AIが作った後に必ず人が確かめてから使います。
根拠を示させるどの注文・どの表のどこに基づくかを示させます。根拠を示せない回答は使いません。
入れてよい情報を決める取引先の名前、仕入れ値、取引の条件など、外に出せない情報を入れる前に、サービスの契約条件(入れた情報をAIの学習に使うか、どこに保存するか)を確かめ、ルールに書きます。
会社の契約で使う社員の個人の契約ではなく、会社が契約したサービスを使います。誰が何に使ったかを会社が把握できます。

経営判断

経営者にしか、決められないこと。

受発注・在庫・原価の見直しは、担当者の努力だけでは先に進めなくなる所があります。次の5つは、担当者の権限では決められません。

  1. 商品ごとの粗利を出すと決める運賃や手間を、どこまで原価に入れるかを決めます。出た数字で、売値と取引の条件を見直すと決めます。
  2. 根拠を持って、値上げを求める原価の表をもとに、どの商品をいくら上げるかを決め、取引先に求めます。交渉の方針は経営者が決めます。
  3. 売れない在庫を、処分すると決める長く動いていない在庫の処分や値引きは、損が表に出るため、経営者が決めます。
  4. 取引先に、やり方の変更をお願いする注文の書式、データでのやり取り、届けてもらう日をまとめることには、取引先との話し合いが要ります。切り替えで取引先が離れないか、取引先ごとに見極めます。
  5. INSネットを使ったEDIの移行に、予算を付けるINSネットを使ったEDIがあるなら、2028年12月31日までに移行します。費用と時期を決めます。
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