菓子類を扱う部署で、取引先からの注文の約9割がFAXで、手で打ち直していた。AI-OCRを入れ、いまは注文の9割をAI-OCRで処理している。注文を受ける作業の時間は「3分の1程度短縮」されたとしている。
出典: インフォマート 導入事例(受発注のサービスの提供会社が自社サービスについて公開したもの)(新しいタブで開きます)
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作成: 中川 健太(作家・中川)公開: /更新:
中小企業の経営者のための 受発注・在庫・原価の見直しと生成AI
卸、製造、小売、飲食など、在庫を持つ会社に向けた資料です。仕入れ値や運賃が上がっても、どの商品でいくら利益が残っているかが分からなければ、どれをいくら値上げするかを決められません。まず、商品ごとに原価(仕入れや製造にかかった費用)と粗利(売値から原価を引いた残り)を出します。そのためには、注文、在庫、出荷の記録がそろっている必要があります。在庫は時期を決めて数え、帳簿の数と合わせます(棚卸し)。こうした数字を、目で見て分かる形にすること(見える化)が出発点です。生成AIの使い所も、そこから決まります。
この資料の結論
2026年版の中小企業白書・小規模企業白書の概要は、小規模事業者について、原価の把握の細かさ別に、価格転嫁できなかった割合を比べています。過去1年間の費用全体の変動分を、どの程度販売価格に転嫁できたかを聞いたもので、「転嫁不要」と答えた事業者は除いています。価格転嫁できなかった割合は、原価を製品・商品・サービス別に把握している事業者で25.1%、事業単位で把握している事業者で29.3%、全社単位で把握している事業者で32.2%、ほとんど把握していない事業者で44.4%でした。並べて比べた結果(相関)で、原価を把握したから価格転嫁できた、とまでは言えません。それでも、商品ごとの原価が分からなければ、どの商品をいくら上げるかの根拠を示せません。同じ概要では、原価を製品・商品・サービス別か事業単位で把握している(原価管理に取り組んでいる)小規模事業者は67.8%です。支援機関に支援を求めている分野として原価管理を挙げた小規模事業者は11.9%でした(複数回答)。
物流の2024年問題(2024年4月からトラック運転手の時間外労働に年960時間の上限ができ、何も対策をしなければ物流が滞るおそれがあるとされた問題)で、マイナスの影響があるとした企業は68.6%でした。「対応あり」とした企業(62.7%)に対応策を聞くと、最も多かったのは「運送費の値上げ(受け入れ)」で、43.3%です(帝国データバンク・2024年1月26日公表・有効回答11,407社・対応策は複数回答)。2025年4月1日からは、改正物流効率化法で、すべての荷主(運送を頼む側の会社)に努力義務がかかっています。求められているのは、積載効率を上げること(1回の運送でトラックに積む荷物を増やすこと)と、荷待ち(トラックが着いてから積み降ろしが始まるまでの待ち時間)と荷役(荷物の積み降ろしなど)の時間を減らすことです。国が示す判断の基準には、「納品日数の集約」(届ける日をまとめること)や「物流・販売・調達等の関連部門の連携」が挙がっています。1年間に扱う荷物の重量が9万トン以上の特定荷主には、2026年4月から、中長期の計画づくりや定期の報告などが義務になりました。運賃の値上げを受け入れる前に、急ぎの少量の注文を減らし、届けてもらう日をまとめられないかを見直します(工程04)。
在庫の数、受けた注文、出荷の予定が、別々の帳面や表にあると、欠品(在庫が切れて売れないこと)や過剰在庫(売れる見込みより多く抱えた在庫)に気づくのが遅れます。藤絹織物は、RFID(電波で読み取る札)を使い、4時間かかっていた棚卸しが10分で終わるようになったとしています。共和テクノスは、在庫と注文の情報を、生産管理のシステム(何を、いつ、いくつ作るかを管理する仕組み)で扱うようにしました。中小企業の棚卸しの時間や、欠品・過剰在庫についての統計は、見つかっていません。この資料では、事例から言える範囲にとどめます。まず、自社の在庫と注文を1つの一覧にまとめるところから始めます。
症状チェック / 約3分
当てはまる症状が多い工程ほど、見直す余地が大きくなります。当てはまった数が最も多い工程を、最初に見る工程として示します。6つの工程すべてに当てはまった時は、工程01から順に見ることを勧めます。
6つの工程
注文を受け、品物を出す。在庫を数え、仕入れる。その記録をもとに、商品ごとの原価を出し、取引先とのやり取りを整える。工程01〜04の記録がそろうと、工程05で商品ごとの粗利を出せます。
改善の定石
業務改善の定石は、なくす・まとめる・入れ替える・仕組みにする、の順に考えることです(英語の頭文字から ECRS と呼びます)。受発注・在庫・原価でも考え方は同じです。打ち直しと書き写しをなくし、注文と在庫を1つの一覧にまとめ、手書きの伝票や勘に頼った注文を、記録と決まりに替えます。文面の下書きに生成AIを使うのは、その後です。
在庫の数、注文、原価の計算のように、正確さが要るものは、表やシステムの方が確実です。生成AIは、注文のメールから項目を抜き出す、取引先への文面を下書きする、といった文章を読み書きする場所で使います。
物流の2024年問題に「対応あり」とした企業(62.7%)に対応策を聞くと、最も多かったのは「運送費の値上げ(受け入れ)」でした(複数回答)。マイナスの影響があるとした企業は68.6%です。2023年12月〜2024年1月の調査で、少し古い数字です。値上げを受け入れる前に、急ぎの少量の注文をなくし、届けてもらう日をまとめる。それが定石の順番です。
出典: 帝国データバンク「2024年問題に対する企業の意識調査」(新しいタブで開きます)(2024年1月26日公表・調査は2023年12月〜2024年1月・有効回答11,407社)
FAX・電話・メールで届く注文をそろえる
注文は、昔からFAXで届きます。取引先に合わせるしかありません。
注文が、FAX、電話、メール、Webと、いろいろな形で届く。受けた人が注文書を見て、手で打ち直す。打ち直すたびに、手間と間違いが生まれます。届いた注文を、同じ形のデータにそろえる工程です。紙やFAXの注文書の文字をAIで読み取り、データにする仕組み(AI-OCR)を使う会社もあります。FAXそのものを減らす進め方は、別の資料「FAXと紙のやり取りをなくす」で詳しく扱います。
業務分野ごとのデジタルの道具の使い方を聞いた設問の「受発注」で、「電話・FAXによる受発注」と答えた会社の割合です。「メール・ホームページ等オンラインでの受発注」は48.8%、「EDI(取引先と、注文書や請求書を決まった形のデータでやり取りする仕組み)による受発注システムを導入」は13.6%、「ネットショップやオンライン決済を導入」は11.4%でした。集計したのは1,002社です。回答1,218社のうち、デジタル化の段階が最も低い「レベル1」(口頭の連絡、電話、帳簿での業務が多い)と答えた会社(17.7%)は、集計に含まれていません。
出典: 東京商工会議所「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査」(新しいタブで開きます)(2025年1月10日・調査は2024年10〜11月・主に東京23区内の中小企業・p.8)
各社・各機関が公開している情報をもとにまとめたもので、作家・中川の支援事例ではありません。
菓子類を扱う部署で、取引先からの注文の約9割がFAXで、手で打ち直していた。AI-OCRを入れ、いまは注文の9割をAI-OCRで処理している。注文を受ける作業の時間は「3分の1程度短縮」されたとしている。
出典: インフォマート 導入事例(受発注のサービスの提供会社が自社サービスについて公開したもの)(新しいタブで開きます)
情報が漏れるのを心配して、Webでの注文に移らずFAXを続けたい取引先があった。そこで、FAXの注文(月に約5,500枚)はそのまま受け、AI-OCRで読み取る形にした。1人1日あたり1時間30分かかっていた、注文をシステムに入れる作業が、30分短くなったとしている。
出典: インフォマート 導入事例(受発注のサービスの提供会社が自社サービスについて公開したもの)(新しいタブで開きます)
経営への影響打ち直しに人手と時間が取られる。数や品番の間違いが、誤出荷や返品になって戻ってくる
注文の数、品番、納期の最終確認は人が行う。読み取りの結果を、確かめずにそのまま出荷に回さない。取引先の情報をAIに入れるのは、使ってよいサービスを決めてから。
出荷の指示・伝票・納品書
出荷は毎日回っています。困ってはいません。
注文を受けてから、品物をそろえて出荷し、納品書と請求書を出すまで。同じ注文の中身を、出荷の伝票、納品書、請求書と、何度も書き写していないか。注文の一覧から、そのまま伝票を出せる形にする工程です。
各社・各機関が公開している情報をもとにまとめたもので、作家・中川の支援事例ではありません。
IT導入補助金(ITツールを入れる費用の一部を国が補助する制度)の、2021年の事例。販売管理のシステム(注文から出荷、請求までを記録する仕組み)と伝票を出すシステムをつなぎ、伝票を出す業務を6分の1に短縮したとしている。
経営への影響書き写しの手間が、注文の数に比例して増える。誤出荷が起きると、送り直しの運賃がかかり、取引先の信用も失う
出荷する品物と数の確認、納期の約束は人が行う。在庫の有無は、AIの答えではなく、記録で確かめる。
数え方・棚卸し・欠品と過剰在庫
在庫は、倉庫を見れば分かります。
帳簿の在庫の数と、棚の実際の数が合わない。合わない数字では、何を、いくつ仕入れればよいかが決まりません。在庫の数え方を決め、帳簿の数と実際の数を近づける工程です。欠品も過剰在庫も、在庫の数が正しく見えていない時に起きやすくなります。
各社・各機関が公開している情報をもとにまとめたもので、作家・中川の支援事例ではありません。
RFID(電波で読み取る札)と読み取りの端末を入れ、4時間かかっていた棚卸しが10分で終わるようになったとしている。
出典: 中小機構「ここからアプリ」導入事例(新しいタブで開きます)(2026-03-16)
Microsoft Access(データベースのソフト)で管理していた在庫と注文の情報を、自社に合わせて作った生産管理のシステム(何を、いつ、いくつ作るかを管理する仕組み)で扱うようにした。栃木県の補助金を使った。効果の数字は示されていないが、過剰な在庫や残業が減ったとしている。
出典: 中小機構「ここからアプリ」導入事例(新しいタブで開きます)(2025-12-23)
経営への影響欠品で売り逃す。売れない在庫が、お金と置き場所をふさぐ。棚卸しの数字が合わないと、利益の計算も狂う
在庫の数は、数えた記録とシステムで管理する。AIに在庫の数を覚えさせたり、推測させたりしない。処分や値引きは人が決める。
注文する数と時期・届けてもらう日
仕入れの注文は、長年の担当者に任せています。
いつ、いくつ注文するか。担当者の勘に頼ると、欠品と過剰在庫を行き来します。在庫がこの数まで減ったら注文する、という目安の数(発注点)を、品ごとに決める工程です。運賃が上がる中で、届けてもらう回数や日の決め方も、この工程で見直します。
各社・各機関が公開している情報をもとにまとめたもので、作家・中川の支援事例ではありません。
AIを導入済みの企業(322社)のうち、導入済みのAIに需要予測(売れる数を前もって見込むこと)のAIを挙げた割合。発注点を決めるのに、需要予測のAIが要るわけではない。まずは過去の出荷の記録から決める。
出典: 中小機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(新しいタブで開きます)(2026年3月)
経営への影響欠品と過剰在庫が交互に起きる。運賃と、荷物を受け取る手間が増える。担当者が休むと、仕入れの注文が止まる
発注点と注文する数の計算は、表計算やシステムで行う。AIに数を決めさせない。運賃や取引の条件の交渉は人が行う。
粗利を、商品ごと・取引先ごとに見る
利益は、決算で見ています。
会社全体では利益が出ていても、商品ごと、取引先ごと、案件(工事や注文を受けて作る品など、1件ごとの仕事)ごとに見ると、赤字のものが紛れていることがあります。仕入れ値、運賃、手間を商品や案件に割り振り、粗利を出す工程です。工程01〜04の記録が、ここで数字になります。
原価を製品・商品・サービス別か事業単位で把握している(原価管理に取り組んでいる)小規模事業者の割合です(9,915事業者)。原価の把握の細かさ別に見ると、価格転嫁できなかった割合(過去1年間の費用全体の変動分について。「転嫁不要」は除く)は、原価を製品・商品・サービス別に把握している事業者で25.1%、ほとんど把握していない事業者で44.4%でした。並べて比べた結果(相関)で、原価を把握したから価格転嫁できた、とまでは言えません。
出典: 2026年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要(新しいタブで開きます)(中小企業庁 調査室)(経済産業研究所 BBLセミナー資料・2026年6月11日・小規模事業者の回答・p.18〜19)・元データは合同会社デロイト トーマツ「令和7年度小規模事業者の経営課題と事業活動に関する調査」
各社・各機関が公開している情報をもとにまとめたもので、作家・中川の支援事例ではありません。
IT導入補助金を使い、工事の原価を管理するシステムを入れた、2020年の事例。見積もり、実行予算(工事ごとに、実際にかける費用の計画)、協力業者への注文の管理を1つのシステムにまとめた。年間120万円のコスト削減を実現したとしている(何の費用かは示されていない)。
支援機関に支援を求めている分野として、原価管理を挙げた小規模事業者の割合(9,622事業者・複数回答)。
出典: 2026年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要(中小企業庁 調査室)(新しいタブで開きます)(2026-06-11)
経営への影響売るほど赤字の商品や取引先に気づかない。値上げの交渉で根拠を示せず、上がった原価を自社でかぶる
原価と粗利の計算は、表計算やシステムで行う。AIに計算させた数字を、そのまま使わない。値上げの判断と交渉は人が行う。仕入れ値や取引の条件をAIに入れるのは、使ってよいサービスを決めてから。
データでの受発注・INSネットの終了
取引先がやり方を変えない限り、うちだけでは変えられません。
取引先ごとに、注文の形も書式も違う。相手に合わせるほど、受ける側の手間が増えます。取引先と、注文書や請求書を決まった形のデータでやり取りする仕組み(EDI)を使う工程です。INSネット(NTTのデジタルの電話回線)を使ったEDIがある会社は、2028年12月31日までに、インターネットを使う方式へ移る必要があります。
INSネットのデータ通信(ディジタル通信モード)は、2024年1月から地域ごとに順次終わり、代わりの仕組み(補完策)に切り替わりました。この補完策もINSネット自体も、2028年12月31日に終わります。ディジタル通信モードの主な使い道には、EDI(メーカー・卸・小売の間の注文データの通信)が挙げられています。補完策では、通信の遅れで処理の時間が増えるなど、使う機器によっては通信に影響が出ることがあります。一方で、普通のFAX(G3ファクス)は、INSネットが終わっても、そのまま使い続けられるとされています。期限があるのはINSネットを使ったEDIで、普通のFAXとは別の話です。
各社・各機関が公開している情報をもとにまとめたもので、作家・中川の支援事例ではありません。
東京商工会議所の調査の「企業の声」に、FAXや郵送でのやり取りが多い業界で、請求書などを「デジタルへシフトした途端に他社へ乗り換えられる可能性を拭えない」という心配の声があった。データでのやり取りへの切り替えは、取引先ごとに見極めながら進める必要がある。
出典: 東京商工会議所「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査」(企業の声・p.26)(新しいタブで開きます)(2025-01-10)
経営への影響取引先が増えるほど、注文を受ける手間が増える。INSネットを使ったEDIを放っておくと、2028年12月31日の後に、取引先とのデータのやり取りが止まるおそれがある
どのEDIのサービスを使うか、取引先にどこまでお願いするかは人が決める。取引の条件を変える時は、取引先と話して決める。
全体像
6つの工程の「いま」と「改善後」、そして効果を確かめる指標を一覧にします。
注文と在庫の記録がそろわないと、発注点も、商品ごとの原価も出せません。見直しは、工程01から順に進めます。INSネットを使ったEDIがある会社は、2028年12月31日から逆算して、工程06を早めに始めます。生成AIのルールは、並行して始めて構いません。
打ち直しと書き写しが減る。誤出荷が減る。
欠品と過剰在庫が減る。運賃の無駄が減る。
値上げの根拠を示せる。取引先が増えても、手間が増えにくくなる。
効果の測り方
経営層に報告するのは一番上の層です。「入れたシステムの数」や「AIの利用回数」は活動の量であって、成果ではありません。受発注・在庫・原価の効果は、月ごとの数字で比べられます。ただし、棚卸しの時間や誤出荷の件数は、着手前に数えておかないと後で比べられません。数えた時期も書いておきます。
価格転嫁できなかった小規模事業者の割合(過去1年間の費用全体の変動分について。「転嫁不要」は除く)は、原価を製品・商品・サービス別に把握している事業者で25.1%、ほとんど把握していない事業者で44.4%でした。並べて比べた結果(相関)で、原価を把握したから価格転嫁できた、とまでは言えません。自社では、商品ごとの粗利を出す前と後で、値上げの交渉がどう変わったかを数字で確かめます。
出典: 2026年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要(新しいタブで開きます)(中小企業庁 調査室)(経済産業研究所 BBLセミナー資料・2026年6月11日・小規模事業者の回答・p.19)・元データは合同会社デロイト トーマツ「令和7年度小規模事業者の経営課題と事業活動に関する調査」
進め方
期間は、社員数十人の会社を想定した目安です。最初の1か月で、注文の届き方と、帳簿と実際の在庫の差を数えるところまで進めます。
生成AIのルールづくりは、ほかの段階を待たずに始めて構いません。取引先の情報や仕入れ値が、個人の判断でAIに入れられている状態を早く終わらせる方が安全です。INSネットを使ったEDIがある会社は、2028年12月31日より前に移行を終えられるよう、最初の月に確かめます。
経営判断
受発注・在庫・原価の見直しは、担当者の努力だけでは先に進めなくなる所があります。次の5つは、担当者の権限では決められません。