生産管理のシステム(何を、いつ、いくつ作るかを管理する仕組み)に作業時間や原価のデータをためて、製品ごとの原価を出せるようにした。想定より利益が低い製品は、根拠を持って顧客に価格の改定を頼めるようになったとしている。システムの提供会社が、自社のサービスについて公開した事例。
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作成: 中川 健太(作家・中川)公開:
中小企業の経営者のための 値上げの根拠づくりと取引条件の見直し
その値上げ、相手から言ってくれるのを待っていませんか。
取引先に納める商品やサービスの値段を、どう見直すかの資料です。業種は問いません。原材料や人件費が上がっても、価格転嫁(上がった費用を、売値に上乗せすること)を、相手から持ちかけてくれるとは限りません。こちらから、根拠の数字を付けて申し出ます。根拠は、自社の原価と、誰でも確かめられる公表資料の2本立てで作ります。値段だけでなく、支払いまでの期間や、預かり物の保管などの取引条件も見直します。2026年1月1日からは、法律も変わりました。生成AIは、資料の下書きや、公表資料の要約に使えます。
この資料の結論
見直しの要点は、3つです。
黙っていれば、価格は据え置かれやすい。こちらから数字を出して申し出る
中小企業庁の2026年3月の調査では、価格交渉が行われた企業は90.7%でした。その内訳は、発注側から申し入れがあって交渉が行われた企業が31.5%、受注側から申し出て交渉が行われた企業が59.2%です(「価格交渉不要」と答えた企業を除いた割合)。交渉の多くは、受注側から始まっています。公正取引委員会が立入調査(役所が会社に出向いて調べること)で確認し、「問題となるおそれのある事例」として公表したものには、受注側から引き上げの要請が無かったとして、協議をせずに価格を据え置いていた例が多く並んでいます。内閣官房と公正取引委員会は、2023年11月29日に「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(以下、指針)を公表し、2025年12月26日に改正を公表しました。指針は、労務費(社員の給料など、人にかかる費用)について、受注側が発注側から価格を示されるのを待たずに、希望する価格を示すことを挙げています。発注側にも、求めが無くても定期的に協議の場を設けることを求めています。それでも、相手が動くのを待たず、こちらから数字を出して申し出ます。
根拠は、自社の原価と公表資料の2本立て。記録を残す
根拠の1本目は、自社の原価です。何が、いつから、いくら上がったかを示します。2本目は、誰でも確かめられる公表資料です。指針は、労務費の根拠として、最低賃金や、春闘(春季労使交渉。毎年春に、労働組合と会社が賃上げを話し合うこと)の妥結額(話し合いで決まった賃上げの額)などの公表資料を挙げています。公正取引委員会の調査(2025年12月15日公表)では、受注側の立場で答えた者のうち、労務費の上がった分として求めた額について、取引価格が引き上げられたと答えた割合は、指針を知っていた者で61.1%、知らなかった者で44.6%でした。これは並べて比べただけの結果(相関)です。指針を知ったから引き上げられた、とまでは言えません。交渉の中身は、記録に残します。指針は、価格交渉の記録を作り、発注側と受注側の双方で保管することを挙げています。
2026年から、取引条件の見直しを、法律を足場に持ち出せる
2026年1月1日、下請法(下請代金支払遅延等防止法。発注側と受注側の取引を公正にし、受注側の利益を守るための法律)が改正され、取適法(中小受託取引適正化法)になりました。対象に、発荷主(荷物を送り出す会社)が運送事業者に物品の運送を委託する取引が加わりました。また、資本金だけでなく従業員数(300人、役務の委託などは100人)でも、対象になるかどうかが決まるようになりました。受注側から代金の協議を求めたのに、協議に応じず、または必要な説明や情報の提供をせずに、一方的に代金を決めて受注側の利益を不当に害することは、禁止されました。公正取引委員会の資料では、ここでいう「決定」には、据え置くことも含まれるとしています。対象の取引では、手形(決めた期日に代金を払うと約束する証書)での支払いも、禁止されました。建設工事では、それより前の2025年12月12日に改正建設業法の一部が施行されました。国の審議会(中央建設業審議会)が「労務費に関する基準」を作り、実施を勧告しました。著しく低い労務費などによる見積もりや、そうした見積もりへの変更の依頼は、禁止されました。原価割れ(代金が、通常必要な原価に満たないこと)の契約の禁止は、受注側にも広がっています。日本商工会議所の資料(2026年5月の調査)では、取適法の施行後の変化として、代金の決定の状況が「改善した」と答えた企業は25.2%でした。対象になる取引かどうかは、取引の種類と、双方の資本金・従業員数で決まります。迷った時の相談先もあります(工程06)。
症状チェック / 約3分
自社に当てはまるものを、選んでください。
当てはまる症状が多い工程ほど、見直す余地が大きくなります。当てはまった数が最も多い工程を、最初に見る工程として示します。6つの工程すべてに当てはまった時は、工程01から順に見ることを勧めます。
6つの工程
値上げと取引条件の見直しを、6つの工程で見る。
費用の上がり方を数字でつかみ、根拠の資料を作る。時期と相手を決めて申し出て、交渉を記録に残す。値段以外の取引条件も見直し、困った時は相談先と法律を使う。工程01・02で数字と資料がそろうと、工程03・04で根拠のある申し出ができます。
改善の定石
まず「なくす」「まとめる」。生成AIは最後。
業務改善の定石は、なくす・まとめる・入れ替える・仕組みにする、の順に考えることです(英語の頭文字から ECRS と呼びます)。値上げと取引条件の見直しでも、考え方は同じです。数字の無い申し出と口約束をなくし、原価と公表資料と交渉の記録をまとめ、相手待ちを、こちらからの申し出に替えます。資料の下書きに生成AIを使うのは、その後です。
- ELIMINATEなくす数字の無い申し出、口約束、代金をもらっていない作業や保管は、本当に要るか。
- COMBINEまとめる費用の上がり方、公表資料、交渉の記録を、取引先ごとに1か所に。
- REARRANGE入れ替える相手の申し出待ちを、こちらからの申し出へ。手形を、現金の振込へ。
- SIMPLIFY仕組みにする申し出る時期、資料の更新、取引条件の見直しを、毎年の予定に。
- + GENERATIVE AI生成AI残った「人が資料を読み、文書を書く」部分を支える。
何でもAIに任せない。生成AIが向くのは真ん中だけ。
原価の計算や交渉の記録のように、正確さが要るものは、表やシステムで残します。生成AIは、公表資料の要約や、申し出の文書の下書きといった、文章を読み書きする場所で使います。いくら上げるか、法律に当たるかどうかは、人が決めます。中小企業が価格交渉に生成AIを使った効果を示す、公的な統計や事例は見つかっていません。この資料に挙げる生成AIの使い所は、使い方の提案です。
2026年4月の調査で、取引先との価格協議を実施した企業のうち、4割以上の価格転嫁ができた企業の割合です。協議を実施していない企業では26.9%でした。これは並べて比べただけの結果(相関)です。協議したから転嫁できた、とまでは言えません。同じ調査で、労務費の上がった分を4割以上転嫁できた企業は38.9%で、従業員10人未満の企業では27.7%(100人以上の企業では46.1%)でした。協議の場をつくる最初の一歩が、数字を持った申し出です。
出典: 日本商工会議所「企業取引の適正化・価格転嫁の現状と課題について」(新しいタブで開きます)(商工会議所LOBO調査・2026年10月7日・調査対象は約2,400社)
- 費用の種類ごとの上がり方
- 商品ごとの原価の計算
- 交渉の記録
- 取引条件の一覧
- 公表資料の要約
- 申し出の文書の下書き
- 打ち合わせのメモの整理
- 聞かれそうな問いと答えの案
- いくら上げるかの判断
- 原価をどこまで見せるかの判断
- 合意するかどうかの判断
- 法律に当たるかどうかの確認
コストの上がり方を数字で見る
原材料・労務費・エネルギー・運賃の上がり方をつかむ
上がっているのは分かります。でも、いくら上がったかは言えません。
申し出る前に、何が、いつから、いくら上がったかを、数字でつかみます。原材料、労務費、エネルギー、運賃の4つに分け、1年前や、前回価格を見直した時と比べます。商品ごとの原価の出し方は、別の資料「受発注・在庫・原価」で扱います。この工程では、上がった分を、費用の種類ごとに並べるところまで進めます。
2026年3月の調査で、費用が上がった分のうち、価格に反映できた割合(転嫁率)を、費用の種類別に見た数字です。労務費は50.0%で、原材料費の55.7%より低い数字です。エネルギー費は48.9%でした。全体では54.2%です。費用の種類によって、転嫁の進み方は違います。
出典: 中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査」(新しいタブで開きます)(2026年6月26日公表・回答69,625社・図表は、関東経済産業局が作成した公正取引委員会の説明会の資料3のp.7〜12で確認)
各社・各機関が公開している情報をもとにまとめたもので、作家・中川の支援事例ではありません。
部門ごとに部品1個あたりの生産単価を管理し、原価を営業部門に集めた。約1か月で交渉の準備をし、営業担当が取引先の購買部門を訪ねて、段階的に交渉した(完了まで主に2〜3か月)。交渉には、すべて自社のデータを使った。ダイカストは、溶かした金属を型に流し込んで部品を作る加工。
起きていること
- 仕入れ値が上がっても、いつから、いくら上がったかを記録していない
- 労務費や電気代の上がった分を、商品の値段と結び付けていない
- 前回価格を見直した時期と、その根拠が残っていない
- どの取引先の、どの商品が苦しいかが分からない
経営への影響上がった額を言えないので、申し出を先延ばしにする。その間、上がった費用を自社でかぶり続ける
定石の打ち手
- なくす「何となく上がった」という感覚だけの説明をやめる。数字の無い申し出をしない
- まとめる原材料、労務費、エネルギー、運賃の4つに分け、1年前と今の額を1つの表にまとめる
- 入れ替える決算でしか見ていなかった費用を、月ごとの数字に替える
- 仕組みにする仕入れ値や電気代の請求が届いたら、表に書き足す。月に1回、前の年の同じ月と比べる
生成AIを入れる場所
- 仕入れ先からの値上げの通知を読み、上がった品と額、いつからかを一覧の形に整える
- 費用の表の数字から、上がり方の特徴を文章でまとめる案を作る
- どの費用から先に調べるかの手順の下書きを作る
費用の集計と計算は、表計算や会計のシステムで行う。AIに計算させた数字を、そのまま使わない。仕入れ値や取引先の名前をAIに入れるのは、使ってよいサービスを決めてから。
- 判断の質上がった額を、費用の種類ごとに出せている商品の割合
- スピード月の締めから、費用の表が更新されるまでの日数
- コスト費用の表の更新にかかる時間
- リスク上がり方を記録していない費用の種類の数
根拠の資料を作る
自社の原価と公表資料・指針の申込み様式(例)
原価を見せたら、利益まで削られそうで不安です。
根拠は、2本立てで作ります。1本目は、自社の原価です。何が、いくら上がったかを示します(工程01)。2本目は、最低賃金や春闘の妥結額のような、誰でも確かめられる公表資料です。指針は、労務費の上がり方を示す根拠として、最低賃金の上昇率や、春闘の妥結額とその上昇率などの公表資料を使うことを挙げています。指針の別添にある「価格交渉の申込み様式(例)」も使えます。
受注側の立場で答えた者のうち、指針を知っていた者が、労務費の上がった分として求めた額について、取引価格が引き上げられたと答えた割合です。指針を知らなかった者では44.6%でした。これは並べて比べただけの結果(相関)です。指針を知ったから引き上げられた、とまでは言えません。指針は、労務費の根拠に公表資料を使うことや、交渉の記録を残すことを挙げています。
出典: 公正取引委員会「令和7年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査の結果について(概要)」(新しいタブで開きます)(2025年12月15日公表)
各社・各機関が公開している情報をもとにまとめたもので、作家・中川の支援事例ではありません。
まず取引先の執行役員に値上げを打診した。材料費などの直接費だけでなく、決算書や損益分岐点の分析などの資料も見せ、2か月ほどかけて説明し、加工賃(加工の手間に対して受け取る代金)を5%強値上げした。作業時間の短縮やネット販売の開始などとあわせて、黒字に転じたとしている。
よろず支援拠点(全国にある、中小企業の経営相談の窓口)の支援を受け、最低賃金の上昇率や労務費の統計を集め、指針に基づく様式を使って資料を作った。労務費の増加分として、5%の価格の上乗せが認められたとしている。
起きていること
- 値上げの理由を、口頭で「厳しい」と伝えている
- 原価をどこまで見せるかを決めていない
- 最低賃金などの公表資料を、根拠に使っていない
- 申し出の文書の書式が、毎回ばらばら
経営への影響相手の担当者が、社内で上の人に説明できない。申し出が、相手の会社の中で止まる
定石の打ち手
- なくす「厳しい」だけの口頭の申し出をやめる
- まとめる自社の原価の変化と、公表資料の数字を、1枚の資料にまとめる。いつの、どの資料かを必ず書く
- 入れ替える毎回作っていた申し出の文書を、指針の別添にある「価格交渉の申込み様式(例)」などのひな形に替える
- 仕組みにする最低賃金の改定や春闘の結果が出たら、資料の数字を新しくする。原価をどこまで見せるかを、社内で先に決める
生成AIを入れる場所
- 最低賃金や賃上げの公表資料を読み、要点と、数字の載っている所を短くまとめる
- 原価の表と公表資料をもとに、値上げの理由を説明する文書の下書きを作る
- 相手から聞かれそうな問いと、答えの案を挙げる
根拠の数字は、元の資料で必ず確かめる。AIがまとめた数字や出典を、確かめずに資料に載せない。いくら上げるか、原価をどこまで見せるかは人が決める。
- 判断の質公表資料を根拠に付けた申し出の割合
- スピード申し出の資料を作るのにかかる日数
- リスク数字の出典を書いていない資料の数
- コスト資料1件を作るのにかかる時間
申し出の時期と相手
いつ、誰に、何を申し出るか
毎年同じ値段で続けてきた相手に、今さら言い出しにくい。
申し出は、時期を決めて行います。中小企業庁は、毎年3月と9月を「価格交渉促進月間」としていて、申し出のきっかけにできます。指針も、定期的な価格交渉の時期や、業界の価格交渉の時期など、申し出やすい機会を使うことを挙げています。誰に出すかも大事です。窓口の担当者だけでなく、価格を決める権限のある人に、資料が届くようにします。取引の段階や相手の業種によって、転嫁率には差があります。
取引の段階別の転嫁率です。最終の製品やサービスを提供する企業から数えて、1次の取引先(1次請け)は55.2%、4次以上の取引先(4次請け以上)は45.5%でした。発注側の業種別に見ると、32業種のうち最も低いのがトラック運送の34.5%、次がビルメンテナンスの40.2%です。業種別の数字は、受注側の業種ではなく、発注側の業種で分けたものです。
出典: 中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査」(新しいタブで開きます)(2026年6月26日公表・回答69,625社・図表は、関東経済産業局が作成した公正取引委員会の説明会の資料3のp.7〜12で確認)
各社・各機関が公開している情報をもとにまとめたもので、作家・中川の支援事例ではありません。
過去2年分の費用のデータを分析して根拠をはっきりさせ、得意先に現場での費用の上がり方を分かってもらう雰囲気づくりをした。得意先の経営幹部層にも、情報交換を通じて費用が上がっていることを伝え、顧客の特徴に合わせて交渉した。左官は、壁や床を塗って仕上げる工事。
中小機構(中小企業基盤整備機構)の価格転嫁検討ツールで、原材料費などの上がった額を数字にし、資料を作った。経営者が資料を持って、取引先の決裁権者を直接訪ねた。全体で13〜15%の価格転嫁に成功したとしている。
起きていること
- 相手から言ってくれるのを待っている
- 申し出る時期を決めていない
- 窓口の担当者に話して、そこで止まっている
- 取引先ごとに、最後に価格を見直した時期が分からない
経営への影響申し出なければ、価格は据え置かれやすい。申し出が遅れた分だけ、上がった費用を自社でかぶる期間が延びる
定石の打ち手
- なくす相手の申し出を待つことをやめる。「言い出しにくい」で先延ばしにしない
- まとめる取引先ごとに、取引の額、最後に価格を見直した時期、価格を決める人を、1つの一覧にまとめる
- 入れ替える「いつか言う」を、時期を決めた申し出の予定に替える。窓口の担当者だけでなく、価格を決める人にも資料を届ける
- 仕組みにする価格交渉促進月間(3月・9月)など、申し出る時期を毎年の予定に入れる。取引の額の大きい取引先から順に申し出る
生成AIを入れる場所
- 取引先の一覧から、申し出の順番を決めるための表の下書きを作る
- 申し出の文書を、相手の担当者が上の人に回しやすい短い形に整える
- 相手の会社の公表資料(決算や発表)を読み、申し出の時期を考える参考になる情報をまとめる
どの取引先に、いつ、いくら申し出るかは人が決める。取引先との関係の判断を、AIに任せない。
- 判断の質1年以内に価格を見直した取引先の割合
- スピード費用が上がってから申し出るまでの月数
- リスク2年以上、価格を見直していない取引先の数
- 判断の質価格を決める人に資料が届いた申し出の割合
交渉と記録
見積もりの内訳を示し、やり取りを残す
交渉は、長年の付き合いで、口頭で決めてきました。
交渉では、見積もりの内訳(材料、人の手間、運賃など、何にいくらかかるか)を示します。総額だけの見積もりでは、どこが上がったのかが伝わりません。やり取りは、日付、出席者、出した資料、相手の答えを、その都度記録に残します。指針は、交渉の記録を作り、発注側と受注側の双方で保管することを挙げています。
受注側が労務費の上がった分として価格の引き上げを求めた額に対して、発注側が受け入れた金額の割合(要請受諾率)です。件数の割合ではありません。求めた額は、上がった分の満額ではなく、受け入れられると考える額に抑えられている可能性がある、と公正取引委員会は注意を添えています。上がった分を十分に転嫁できたことを示す数字ではありません。申し出た額と、認められた額の両方を記録しておくと、自社の取引での差が分かります。
出典: 公正取引委員会「令和7年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査の結果について(概要)」(新しいタブで開きます)(2025年12月15日公表)
各社・各機関が公開している情報をもとにまとめたもので、作家・中川の支援事例ではありません。
費用ごとの上がり方の推移をデータにして交渉の基礎資料とし、これをもとに希望する単価を決めた。交渉には期限を設け、かかった期間は最短2週間、最長3か月ほど。輸送だけの得意先には、倉庫を使って物流の費用を全体で下げる提案をし、業務の追加に伴う新しい価格も示した。
起きていること
- 見積もりが総額だけで、内訳を示していない
- 交渉の中身を、記録に残していない
- 「検討します」のまま、答えの期限が決まっていない
- 一部しか認められなかった時、次にどうするかを決めていない
経営への影響記録が無いと、何を求め、何が認められたかが、後で分からなくなる。担当者が替わると、交渉が振り出しに戻る。相談の窓口に行く時にも、経緯を示せない
定石の打ち手
- なくす総額だけの見積もりと、口頭だけの合意をやめる
- まとめる見積もりに、材料、人の手間、運賃などの内訳をまとめて示す。交渉の記録は、取引先ごとに1か所にまとめる
- 入れ替える口頭の約束を、日付、出席者、資料、相手の答えを書いた記録に替える。記録は相手にも送り、内容を確かめてもらう
- 仕組みにする答えの期限を決めて申し出る。一部しか認められなかった時は、残りをいつ、どう申し出るかを決めて記録する
生成AIを入れる場所
- 打ち合わせのメモから、日付、出席者、決まったこと、次にすることを抜き出し、記録の形に整える
- 相手に送る、打ち合わせの内容を確かめるメールの下書きを作る
- 見積もりの内訳を、相手に分かりやすく説明する文の下書きを作る
いくらで合意するか、どこまで譲るかは人が決める。記録の中身は、出席した人が確かめてから送る。交渉の中身や相手の情報をAIに入れるのは、使ってよいサービスを決めてから。
- リスク記録を残していない交渉の件数
- 判断の質内訳を示した見積もりの割合
- 判断の質申し出た額のうち、認められた額の割合
- スピード申し出てから答えが出るまでの日数
取引条件を見直す
支払いまでの期間・手形・型の保管・運賃と待ち時間
支払いの条件は、昔からこうです。言えば、取引を切られそうで。
値段だけが、取引条件ではありません。支払サイト(納品や請求から、代金が支払われるまでの期間)、支払いの方法、預かっている金型(部品を作るための型)の保管、運賃や待ち時間の負担も、取引条件です。どれも、お金と手間に直結します。取適法の対象の取引では、2026年1月1日から、手形での支払いが禁止されました。手形のほかにも、支払期日までに代金の満額を現金で受け取ることが難しい支払いの方法は、認められません。また、これまでの下請法と同じく、発注側は、物品などを受け取った日から数えて60日以内の、できる限り短い期間で、支払期日を定めなければなりません。
公正取引委員会は2026年2月24日、ティラドに勧告をしました。製品の発注を長期間行わないのに、取引先43社に、金型と治具(加工や組み立ての時に、部品を固定する道具)を、合わせて4,311個、無償で保管させていたとされた件です(取適法の施行前の取引のため、改正前の下請法による勧告)。ティラドは、勧告の前の2026年1月20日までに、保管させた費用として、総額8,069万1,761円を取引先に支払っていました。勧告は、発注側に対して行われるものです。受注側としては、預かっている型の数と、保管にかかる費用を把握しておくことが、申し出や相談の出発点になります。
出典: 公正取引委員会「株式会社ティラドに対する勧告について」(新しいタブで開きます)(2026年2月24日)
起きていること
- 代金が入るまでの期間が長く、資金繰りが苦しい
- 手形で受け取り、期日の前に手数料を払って現金にしている
- 取引先の型や部品を、無償で預かり続けている
- 荷物を渡すまでの待ち時間や、頼まれた追加の作業の代金をもらっていない
経営への影響値段は同じでも、支払いが遅いほど、手数料や保管の費用が増えるほど、手元に残るお金は減る。見えない費用を、自社でかぶり続ける
定石の打ち手
- なくす代金をもらわずに続けている保管、待ち時間、追加の作業をなくす。使わなくなった型は、返すか、処分するかを相手と決める
- まとめる取引先ごとに、支払いまでの期間、支払いの方法、預かっている物、待ち時間を、1つの一覧にまとめる
- 入れ替える手形での受け取りを、現金の振込に替える。手形の割引やファクタリング(入金前の売掛金を、手数料を払って他社に買い取ってもらうこと)に頼る形を減らす。保管、待ち時間、追加の作業には、代金を求める
- 仕組みにする取引条件を、値段と同じ時期に毎年見直す。決まったことは、書面に残す
生成AIを入れる場所
- 取引先から届いた契約書や発注書を読み、支払いの条件や保管の決まりが書かれた所を抜き出す
- 取引条件の一覧から、費用がかかっている条件を拾い出す表の下書きを作る
- 型の返却や保管料について、相手に相談する文書の下書きを作る
契約書の読み方や、法律に当たるかどうかを、AIの答えだけで決めない。迷ったら、相談の窓口や専門家に確かめる。条件を変えるかどうかは人が決める。
- コスト手形の割引など、現金にするための手数料の年間の額
- スピード納品から代金が入るまでの平均の日数
- リスク代金をもらわずに預かっている型の数
- コスト代金をもらっていない待ち時間と追加の作業の時間
困った時の相談先と法律の使い方
取適法・改正建設業法・相談の窓口
法律を持ち出したら、取引先との関係が壊れそうです。
申し出ても、協議に応じてもらえない。一方的に値段を決められた。そうした時は、一人で抱えずに相談します。下請法の時から、買いたたき(通常支払われる対価より著しく低い代金を、不当に決めること)は禁止されています。取適法の対象の取引では、受注側から代金の協議を求めたのに、協議に応じず、または必要な説明や情報の提供をせずに、一方的に代金を決めて受注側の利益を不当に害することも、禁止されました。公正取引委員会の資料では、協議の求めを無視したり、繰り返し先延ばしにして協議を難しくしたりすることも「協議に応じず」に当たり、「決定」には据え置くことも含まれるとしています。建設工事では、2025年12月12日に施行された改正建設業法の一部で、著しく低い労務費などによる見積もりや、そうした見積もりへの変更の依頼が禁止されました。
日本商工会議所の資料(2026年5月の調査)で、取適法の施行後の変化として、代金の決定の状況が「改善した」と答えた企業の割合です。「取引適正化法対象外などのため、変化はない」(取引適正化法は取適法のこと)と答えた企業が比較的多かった、とされています。法律が変わっても、すべての取引が変わったわけではありません。協議に応じてもらえない時は、記録を持って相談の窓口に行きます。
出典: 日本商工会議所「企業取引の適正化・価格転嫁の現状と課題について」(新しいタブで開きます)(商工会議所LOBO調査・2026年10月7日・調査対象は約2,400社)
各社・各機関が公開している情報をもとにまとめたもので、作家・中川の支援事例ではありません。
企業が「発注者」の立場で、取引先との共存共栄や、望ましい取引の慣行を守ることなどを宣言し、公表する仕組み(事務局は内閣府と中小企業庁)。全国で宣言した企業の数。宣言は自発的なもので、罰則は無い。相手が宣言しているかどうかは、申し出や相談の時の話のきっかけになる。
出典: 北海道「広げよう!パートナーシップ構築宣言」(新しいタブで開きます)(2026-09-30)
起きていること
- 協議を求めても、返事が無い、または断られる
- 自社の取引が、法律の対象になるか分からない
- どこに相談すればよいか知らない
- 相談したことが、取引先に知られないか心配
経営への影響相談しないまま、一方的に決められた値段で受け続ける。対象になる取引でも、法律の守りを使えない
定石の打ち手
- なくす「うちの取引は関係ない」という思い込みをなくす。自社の取引が対象かを、まず確かめる
- まとめる協議を求めた日、相手の答え、出した資料を、相談に持って行ける形にまとめる(工程04の記録)
- 入れ替える一人で悩むのをやめ、相談の窓口を使う。窓口には、取引かけこみ寺(代金の減額や買いたたきなど、取引の悩みの相談を受ける窓口。全国47都道府県にあり、弁護士による無料相談もある)、価格転嫁サポート窓口(全国のよろず支援拠点に置かれ、中小企業診断士などが原価計算などを助言する)、公正取引委員会の申告の窓口(オンラインでも申告できる)がある。取引かけこみ寺は、裁判によらずに解決を図る手続き(裁判外紛争解決手続、ADR)も扱う。取引先に知られないかなど、相談の仕方は、窓口に先に聞く
- 仕組みにする取適法や建設業法の改正の内容を、年に1回確かめる。中小機構の「価格転嫁検討ツール」(商品別・取引先別の収支をつかみ、目指す取引価格を試算する道具)で、自社の状況を時期を決めて点検する
生成AIを入れる場所
- 相談に持って行く、経緯の時系列のまとめの下書きを作る
- 公正取引委員会や国土交通省の公表資料を読み、自社に関係しそうな所を要約する
- 相談の窓口に聞きたいことを、短い問いの形に整える
法律に当たるかどうかを、AIの答えで判断しない。判断は、相談の窓口や弁護士などの専門家に確かめる。経緯に含まれる取引先の情報をAIに入れるのは、使ってよいサービスを決めてから。
- リスク対象になるかを確かめた取引の割合
- スピード協議を求めてから答えが出るまでの日数
- 判断の質経緯を記録にまとめてある取引先の数
- リスク協議に応じてもらえていない取引先の数
全体像
最初から最後まで、何が変わるか。
6つの工程の「いま」と「改善後」、そして効果を確かめる指標を一覧にします。
- 01コストの上がり方を数字で見るいま費用が上がっても、いつから、いくら上がったかを言えない改善後原材料・労務費・エネルギー・運賃に分け、月ごとに上がり方を表にする効果を測る指標上がった額を、費用の種類ごとに出せている商品の割合/月の締めから、費用の表が更新されるまでの日数
- 02根拠の資料を作るいま値上げの理由を、口頭で「厳しい」と伝えている改善後自社の原価と公表資料の2本立てで、根拠の資料を作る。生成AIで公表資料を要約し、文書を下書きする効果を測る指標公表資料を根拠に付けた申し出の割合/申し出の資料を作るのにかかる日数
- 03申し出の時期と相手いま相手から言ってくれるのを待っている改善後時期を決め、価格を決める人に資料が届くよう、こちらから申し出る効果を測る指標1年以内に価格を見直した取引先の割合/2年以上、価格を見直していない取引先の数
- 04交渉と記録いま総額だけの見積もりと、口頭の合意で決めている改善後内訳を示した見積もりで交渉し、記録を相手と共有する効果を測る指標記録を残していない交渉の件数/申し出た額のうち、認められた額の割合
- 05取引条件を見直すいま支払いまでの期間、手形、型の保管、待ち時間を、昔のまま受けている改善後取引条件を一覧にし、値段と同じ時期に見直しを申し出る効果を測る指標手形の割引など、現金にするための手数料の年間の額/納品から代金が入るまでの平均の日数
- 06困った時の相談先と法律の使い方いま協議に応じてもらえなくても、一人で抱えている改善後対象になるかを確かめ、記録を持って相談の窓口へ効果を測る指標対象になるかを確かめた取引の割合/協議に応じてもらえていない取引先の数
効果は、連鎖して現れる。
費用の数字と根拠の資料が無いと、申し出ても、相手が社内で説明できません。見直しは、工程01から順に進めます。協議に応じてもらえない取引先がある会社は、工程06の相談を、順番を待たずに始めます。生成AIのルールも、並行して始めて構いません。
- 工程01・02で、数字と根拠をそろえる
上がった額を言える。相手が社内で説明できる資料ができる。
- 工程03・04で、申し出て、記録に残す
据え置かれる期間が短くなる。担当者が替わっても、交渉が続く。
- 工程05・06で、取引条件を見直し、守る
値段以外で出ていた費用が減る。困った時に、記録を持って相談できる。
効果の測り方
指標は、3層に分けて測る。
経営層に報告するのは一番上の層です。「申し出の件数」や「AIの利用回数」は活動の量であって、成果ではありません。値上げの効果は、上がった費用のうち、どれだけを価格に反映できたかで見ます。着手前の数字を、記録しておきます。
2026年3月の調査で、費用が上がった分のうち、価格に反映できた割合(転嫁率)です。回答した企業の平均です。2022年9月は46.9%、2025年9月は53.5%でした。上がった分を全額転嫁できた企業は27.2%、まったく転嫁できなかった、またはマイナスになった企業は16.0%です(「価格転嫁不要」と答えた企業を除いた割合)。帝国データバンクの調査(2026年7月実施・2026年8月28日公表・有効回答10,518社)では、転嫁率は39.9%でした。集計の方法が違うため、この2つの数字は比べられません。自社でも、同じ計算のしかたで続けて測ります。
出典: 中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査」(新しいタブで開きます)(2026年6月26日公表・回答69,625社・図表は、関東経済産業局が作成した公正取引委員会の説明会の資料3のp.7〜12で確認)
- 自社の転嫁率(上がった費用のうち、価格に反映できた割合)
- 赤字になっている取引先の数
- 手形の割引など、現金にするための手数料の年間の額
- 納品から代金が入るまでの平均の日数
- 1年以内に価格を見直した取引先の割合
- 申し出た額のうち、認められた額の割合
- 記録を残していない交渉の件数
- 代金をもらわずに預かっている型の数
- 公表資料を根拠に付けた申し出の割合
- 内訳を示した見積もりの割合
- 生成AIのルールを読んだ社員の割合
- AIの下書きをそのまま使えた割合
進め方
4つの段階で進める。
期間は、社員数十人の会社を想定した目安です。最初の1か月で、費用の上がり方と、取引先ごとに最後に価格を見直した時期を確かめるところまで進めます。
- 0〜1か月数える
- 費用の上がり方を、種類ごとに表にする
- 取引先ごとに、最後に価格を見直した時期を確かめる
- 自社の取引が取適法の対象になるかを確かめる
- 1〜3か月根拠を作り、申し出る
- 自社の原価と公表資料で、根拠の資料を作る
- 取引の額の大きい取引先から申し出る
- 交渉の記録を残し、相手と共有する
- 3〜12か月取引条件を見直す
- 支払いまでの期間、手形、型の保管、待ち時間を一覧にする
- 取引条件の見直しを申し出る
- 申し出る時期を、毎年の予定に入れる
- 最初の月から生成AIのルールを1枚に
- 使ってよいサービスを決める
- 入れてよい情報を決める
- 公表資料の要約と、文書の下書きから使い始める
生成AIのルールづくりは、ほかの段階を待たずに始めて構いません。原価や取引先の情報が、個人の判断でAIに入れられている状態を早く終わらせる方が安全です。協議に応じてもらえない取引先がある時は、段階を待たずに相談の窓口に連絡します(工程06)。
生成AIを仕事に入れる時の決まりごと
経営判断
経営者にしか、決められないこと。
値上げと取引条件の見直しは、担当者の努力だけでは先に進めなくなる所があります。次の5つは、担当者の権限では決められません。
- こちらから申し出ると決める相手の申し出を待たず、どの取引先に、いつ申し出るかを決めます。
- 原価をどこまで見せるかを決める根拠の資料に、原価や決算の数字をどこまで載せるかを決めます。見せる範囲は、取引先ごとに変えても構いません。
- いくら上げるか、どこまで譲るかを決める申し出る額と、合意できる下限を決めます。一部しか認められなかった時の、次の手も決めます。
- 値段以外の取引条件の見直しを求める支払いまでの期間、手形、型の保管、待ち時間の代金。値段以外の条件の見直しを、取引先に求めると決めます。
- 相談の窓口や専門家を使うと決める協議に応じてもらえない時に、相談の窓口や専門家に相談すると決めます。取引先との関係も踏まえて、経営者が決めます。